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奥平レポート








                 ◆デジタル補聴器が高性能なのに不満が多い理由

                 ◆立体感覚と方向感覚は似ているけれども違う理由

                 ◆音の正体と「聞く事」と「聴く事」の違い
                   (「日本物理教育学会」機関誌掲載論文)




    


                                               『補聴器愛用会』副会長
                                                     奥平 知明



デジタル補聴器が高性能なのに不満が多い理由


 デジタル補聴器はアナログ補聴器と比べて、確かに特定の音を雑音の中から引き出して、「ほらっ、これが
母音の『あ』の音だよ、こちらが子音の『さ』の音だよ」と音を分離して耳に通してくれる性能にはすばらしい
ものがあります。ただし、デジタルと言うのは0と1で表される信号の世界です。そのため単純なそのもの
ずばりの音というより、ひとつの法則と規則に支配された型にはめられてしまった加工された音です。

わかりやすくいえば自然石を積み上げただけの石垣ときちんと整然と積み上げるために角を削り大きさを
そろえて積み上げている石垣の違いと同じです。一つ一つの音を規格品化したうえで、難聴の状態に
あわせて調整(フィッティング)するために、広告でどう謳おうとも人工の不自然な音にしかなりません。

しかし、自然な音にする方法はあります。それは補聴器自体が人間の耳と同じだけの周波数帯域(12〜
20000ヘルツ)を全てデジタル処理し、調整するための周波数のグループ数(チャンネルといいます)を
多くしてマルチチャンネルにすれば技術的には完璧な補聴器が作れます。ところが現実に存在するデジタル
補聴器はせいぜい100〜6000ヘルツしかカバーしていません。


現状を見てみるに、今市販されている多くの補聴器では4〜6チャンネル程度の調整しかできません。2004年の
6月頃までは10チャンネル以上の調整ができる優れた補聴器がありましたが、残念ながら補聴器販売店員の
技術研修ができないという無責任な理由で高性能の補聴器は影をひそめるようになり、難聴でより良い補聴器
を必要とする人々に不利益を与えています。

本来ならば補聴器を必要とする人達の要望を優先しなくてはならないのですが、高度な技術力で高性能の
製品を開発しながら補聴器を調整する人材の育成を完全に怠っているがために、これが最大の原因となり
せっかくの高性能補聴器が難聴者の耳に届かなくなっています。

2005年夏現在で10チャンネル用の補聴器はあることはありますが、その数は少なくなっており、傾向としては
多チャンネルの方向よりもはるかに少ない4〜5チャンネル程度と調整者の低い技術レベルに合わせた後退、
或いは退歩型補聴器が主流となっています。

また、最近、新聞などで小林圭樹をモデルにした“人工知能を持つ補聴器”として宣伝されている製品があり
ますが、これが「人工頭脳」と呼ぶに相応しいものでしょうか?

少し調べてみると際立った聞こえやこれと言った目新しい技術の産物も見当たりません。騒音環境や音声に
対する自動切り替え機能を持つ程度のものであり、人工知能を名乗るもおこがましいといえます。

卑しくも人工知能と謳うのであれば20チャンネル程度の切り替えや10種類程の生活環境に対応する調整
記憶の自動切換えがあってこそ初めて人工知能と呼ぶべきものと言えます。つまり、補聴器自体で多くの
パターンを解析して判断するというのが人工知能ですから、本製品のようなたかだか2パターンの切り替えでは
消費者を無視した、或いは愚弄したものとしか考えられず、単なる売り込みのための言葉の遊びに過ぎません。
また試聴してみると音質も決して良いものとも言えません。


最後に、補聴器の技術的な問題とは別に補聴器を使う人達が耳と聴こえの仕組みを十分に理解していないと
いうのが大きな問題と言えます。 更に悪いことには、聞こえ具合や不自由な聞こえに起因する自分の置かれて
いる状態を理解する知識と相手に伝える表現力がないということも無視できない問題として認識する必要が
あります。そしてこれは補聴器を販売する人達にも当てはまることですが、双方共に知識、表現力が欠ける
場合に展開される深刻な光景や結果は容易に想像できることです。

人は耳で音を聞いているのではなく、脳で聴いているのです。補聴器は耳の機能不全を補うだけの役割しか
ありません。音を聞くのではなく、聴くということは感じることなのです。感じるための能力はトレーニングしないと
向上しませんし、難聴の場合は回復は難しいのです。補聴器とはただ耳に入れ、使用しただけでは性能の
限界による不満が爆発します。補聴器を使用する者として音を感じるための補聴器を使ってのトレーニングを
忍耐強く行わないと完全な聴こえ、つまり理想の音は得られません。

                                             <2005年9月28日>





     
立体感覚と方向感覚は似ているけれども違う理由


 よく補聴器は両耳にしたほうが良いと言われます。これは確かにその通りです。しかし、補聴器の広告でよく
見かける「立体感覚が戻ります」との謳い文句がありますが、これは嘘です。

確かに両耳に補聴器を装用すると片方だけの時と明らかに違うのは補聴器が音を拾う角度が広がるのと、
左右の補聴器のマイクが重複して音を拾う範囲が生じるために音量が下がり、このために音質が綺麗に
なり、右と左の音の来る方向がわかりやすくなるのは事実です。これだけでも生活する上での安全性と
音が本来の自然な聞こえ方となるので安心感と満足感が大きくなります。

ところが立体感覚というのは戻りません。一部狭い範囲(左右の補聴器が重複して音を拾う前方の扇型の前
30〜50センチ程度で、自分の目から下程度の範囲)では音源の移動が奥行きや斜め移動しても立体的に
感じるように思えますが、半径1メートルを越えての立体感覚は相当脳の感じる力をトレーニングしている人でも
ないと戻りません。

立体感覚とは何かというと音源(音)が垂直と水平に同時移動している状態を連続的に把握できる事を言い
ます。例えば、高さ3メートルの木の上で雀がさえずっている時に、雀が木の枝に静止している場合は補聴器の
集音性能により、さえずりを聴く事も楽しむこともできます。しかし、複雑に枝から枝へ上下左右にと自由に飛び
回りさえずっている場合の動きを耳の聞こえだけで追跡することは補聴器の場合できません。

器械的な補聴器の性能は100〜6000ヘルツしかカバーしていないのが現実です。最新の研究では人間の
脳が音の上下移動を分析する時に必要な音の周波数は7000〜8000ヘルツの中に存在していることが
分っていますが、上下の感覚分析に脳が使用している周波数が7250ヘルツとか7850ヘルツであるという
確定的な周波数の数値まではつきとめられていません。

このことからも立体的に音源を脳が把握するために必要な7000〜8000ヘルツの周波数をカバーしていない
補聴器が立体感覚を再生することができるのでしょうか。立体感覚が戻るという表現は補聴器の場合、数字の
上からもあきらかに誇大広告であり詐欺まがいと言わざるを得ません。

但し、両耳装用により左右の集音範囲が確実に広がり、片耳だけの時よりも音の表情に豊かさは出てきます。
脳に均等に音の情報が左右から入るということが脳の活性化のためにも役立ちますし、片方の脳だけが活性化
するのではなく、脳全体に音の刺激が入るため痴呆防止にも効果的です。 

注意しておかなくてはならないのは音の立体感覚というのは脳の感じる力を相当訓練する必要があるという
ことです。聞こえに問題のない人(健聴者)の場合、一方向から来た音でも左右の耳に入り、脳に伝わっている
ために脳が左右の耳からの周波数の到達時間の差で音源の位置や移動を把握しています。

難聴者の多くは感音性難聴ですが、感音性難聴者は高い周波数帯域の音(4000ヘルツ以上)の聞き取りが
悪いために、子音の聞き取りと音の上下を分析するのに必要な周波数帯域の音が長年脳に伝わっていないと
いえます。

この状態でいきなり補聴器を使用しても脳の感じる力が落ちているか、失われているのに等しい状態のために
脳の感じる力をトレーニングする必要があります。脳の感じる力のトレーニングは筋肉トレーニングと同じで怠ると
効果が落ちます。一生トレーニングし続ける必要があります。

最後に補聴器を両耳装用しても立体感覚が戻らない理由の二つ目ですが、脳の中での立体感覚の把握は
両方の耳に一方向から来た音でも左右の耳から音が脳に同時に伝わることが必要です。補聴器は両耳装用
していても音の来る角度にもよりますが、右側の音は右耳だけ、左側の音は左耳にだけしか入っていません。
多くの両耳装用者の場合、右側から来た音が左の耳からも入って脳へ同時に伝わっていないか全く伝わらない
ために、脳は片耳からの情報だけで音源の移動を把握せざるを得ない状態で、これが殆どの両耳での補聴器
使用者の聞こえと聴こえの実態といえます。

                                             <2005年10月11日>




   
音の正体と「聞く事」と「聴く事」の違い
(音は耳で聞いているのではなく脳で聴いている)

               
 
 目が悪くなれば物理的に、レンズの屈折の原理を利用した眼鏡によって視力は回復します。耳が悪く(難聴)
なれば物理的に音量を増幅する増幅器を利用した補聴器によって聴力は回復するはずですが、眼鏡のように
即、回復はしません。音と言葉と脳の音の認識のシステムを周波数分解という観点から、「聞く事」と「聴く事」の
違いを取り上げることにより、補聴器のシステムの周波数分解が完全でないという現状と改善策を報告します。
  もくじ
   1.音の正体とエネルギーとしての音量
   2.音の「聞こえ」と「聴こえ」の違い
   3.人間の持つ聴覚の優秀さ                   
   4.難聴とはどのような状態なのか
   5.聞き間違えを物理学的に説明すると
   6.補聴器が聴力の回復に役立っていない理由
   7.耳と補聴器と聴こえの展望




1.音の正体とエネルギーとしての音量
 音の正体は空気の様々な振動の複合した波であり、振動としての周波数と音量としての音圧があります。
空気の振動の複合体を数値的に一秒間の振動数を個別に測定したものを周波数といい、ヘルツ(Hz)という
単位で表わされます。10Hz・100Hz・1,000Hz・10,000Hzと数字が大きくなるほど振動数が多く、音楽の表現
でいう音階としては数字が大きいほどキーンと言う金属的な感じの高い音になります。よく誤解があるのですが、
音量としてのボリュームの大きさと音階の高さは関係がありません、音階が高くなるとどうしてもボリューム
としての音量も高く、大きくなっていると思いがちですが、違います。

このことがよくわかるのが楽器の王様といわれるピアノです。ピアノの音階は左から右へ段々高くなっていき
ますが、ボリュームとしての音量はどの鍵盤をたたいても等しくなるように調整されています。一番左側のドの
音と一番右側のドの音の鍵盤を同じ強さで一音づつ叩いて聞き比べると同じボリュームの音量であることが
確認できます。

音階的に高い音イコール大きなボリュームの音ではありません、音量としてのボリュームとは音の持つ
エネルギーであり人間が感じる音の圧力としての存在感のことをいいます。音量とは音の持つエネルギーで
あることがよくわかる現象として雷鳴があります。雷は距離的に近くでの落雷よりも遠距離の落雷の方が音の
エネルギーが大きいということがわかる例として、光ってから5秒経過して聞こえた音よりも、別な場所で
光ってから10秒以上経過した雷の方が予想外に大きな音で驚いた経験があると思います。遠距離から
聞こえる音は、近距離で聞こえる音よりも音としてのエネルギーが強力なため、離れたところまでエネルギーが
保存されて到達します。保存されたエネルギーも大きいために爆弾でも落ちたかのような大音量となります。



2.音の「聞こえ」と「聴こえ」の違い
 聞こえと聴こえの違いは漢字のイメージからもお分りの通り、聞くというのは門構えに耳が入っています、
文字通り音を迎え入れる門、ゲートです。ある程度絞りをいれる役割をはたしているのは実際の門同様で、
外部からの余計な侵入者を防ぎ出入り口を限定しています(12〜20,000Hz)。

これに対して聴くというのは、耳と心が並んでいる様子から耳を通過した音を心が感じ取っていることを意味
します。したがって、聞こえに対して聴こえというのは、耳で周波数分解された音の処理(聞こえ)情報が脳で
言語や音楽などの意味ある音の情報として人間の自我や心に認識されることを言います。

現実に音は耳という器官で認識しているのではなく脳で認識しています。耳は音の通過地点で、音という
外界の情報を脳に信号に変換(周波数分解)して伝えているだけです。この変換が何らかの原因でうまく
いかないと音は脳に伝わらず聞こえないということになります。耳に何らかの機能不全があって音が脳に
伝わらず聞えない状態を難聴といいます。器官としての耳に機能不全があるから難聴といいます。

例としては極めて珍しいのですが、耳には全く機能不全がないにもかかわらず音が聞えないという症例が
あります。これは耳の外耳・中耳・内耳・聴覚神経には全く機能不全がありませんが、交通事故によって
亀裂骨折をおこし、脳の聴覚情報を処理する部位のみに損傷を受けてしまって音が脳で処理できなくなった
という極めて稀なケースです。この場合は、耳には機能不全が全くない為、難聴とはいいません。耳は音を
正常に通過させていますが、脳で処理できない為に聴こえていない状態です。

聞えは周波数分解された情報であり、聴こえは周波数分解された情報を脳が情報処理して意味を持って
認識されることを言います。  


3.人間の持つ聴覚の優秀さ
 人間のもつ聴覚の優れた能力の説明として、約10メートル四方の100人ほど入る講堂で、講演をしている
とき、前列で聞いている人も、後列で聞いている人も講演者の声の大きさをほとんど大差なく感じながら
聞いています。しかし、実際に聞こえている声は、後列の方では前列の8分の1位の強さでしか伝わって
いません。これはカラオケのマイクで試すとよく分かりますが、マイクを口元から数10センチ離すと音を拾わ
なくなります。距離が離れるほどマイクの拾う音は段々小さくなっていくのに対して、講堂における講演者の
声は室内のどの位置でもそれほど変化なく聞こえます。

これは、耳が無意識に感度を調節しているからです。遠くの音、小さな音に対しては感度を上げて聞いたり、
近くの音、大きな音に対しては適度に感度を下げて聞いたり、又近くの音に対して感度を下げながら遠くの
音に対しては感度を上げながら聞くという同時調整作業を、人間の脳の聴覚は普通に行います。

これに関連して、人間の聴覚にはカクテルパーティー効果と呼ばれる、パーティー会場のように非常にざわ
ついた会場の騒音のなかでも隣の人と会話ができ、注意して聞くとひそひそ話まで聞く能力があります。
同じパーティ会場の様子をテープレコーダーなどの機械で録音してみると、再生時、ざわめきや騒音ばかりが
多くて、誰が何をしゃべっているのか分からなくなります。機械は特定の音にだけ感度をあげ、聞き取ることは
指向性のマイクで無い限り無理があり、脳の聴覚のように情報を分析処理はできないといえます。

さらに驚くべき能力を人間の脳の聴覚は持っています。人間の居住空間の騒音が日頃どのくらいあるか
騒音計で計ると、ほとんど何も聞こえない様な山村の深夜2時、3時という真夜中であっても、騒音計の針は
20〜30デシベルから下がることはありません。風の音、木の葉の擦れ合う音、遠い川の流れ、虫の声、
時計の秒針、子供の寝息、さらに自分の呼吸や心臓の鼓動まで。潜在雑音とも言うべきこれらの騒音が、
休みなく聞こえていたのでは人間の神経が参ってしまいます。

人間が日常的に生活している時の騒音は約50〜60デシベル程度あります。そしてその音量が40デシベルに
なれば40デシベルの音量に下がって聞こえ、さらに30デシベルに下がれば30デシベル相当の音量に下がって
聞こえます。音量が20デシベルに下がった場合は、20デシベル相当の音が聞こえ10デシベルでは10デシベル
相当の音が聞こえれば何の不思議もないのですが、どんな耳のいい人でも20〜30デシベルから下は、
スイッチを切ったように聞こえなくなります。

つまり、人間の脳の聴覚は必要のない騒音レベルの音を聞こえない様にカットして、心身の静寂が得られる
様にしています。実験によれば、何も聞こえないと感じられる静寂の中でも、音をさえぎる物で気付かれない
ようにして左右の耳を覆った場合でも、これを気配として感じとることができます。これは感知されているが、
音として認識されない状態であり、脳の聴覚によるリミッターが存在しているといえます。そして、リミッターの
レベルを超える音声が来た時、聴覚のスイッチが入り情報処理がはじまり、聴こえる様になる安全装置が
あるといえます。

人体の器官はどれもが優れた能力があり、いかに技術が進歩してもこの能力を100パーセント機械に置き
換えることは当分の間出来ないと考えられます。とりわけ人間の聴覚は、大脳の働きと同様いかなる技術も
到底及ばないほどの優れた分析力と情報処理能力を持っています。そしてこれらの能力は音が聞こえる
状態と聞こえない状態に関係なく聴覚の中に存在し、現実に鼓膜が振動して来る耳からの情報によって働き、
音を分析認識します。


4.難聴とはどのような状態なのか
 難聴とは、一般的には音が聞えないか小さく聞えてしまう状態で、大きな声や音なら聞える状態であると
思われています。確かに小さい音が聞き取り難いというのは事実ですが、大声で話せば聞えたり、補聴器を
使用すると元通りに聞えるという単純な状態ではありません。

難聴の種類は、伝音性難聴・老人性難聴・感音性難聴・混合性難聴の4種類があり、内訳として伝音性難聴は
全体の1割程度なのに対して、難聴の9割(老人性難聴を含む)近くが感音性難聴です。それぞれの難聴の
機能不全と状態は難聴と一口に言えないほどの違いがあります。

 伝音性難聴は、耳の中耳の部分の機能不全で、全体の音量が周波数に異常はなく、また変化もなく単純に
   音量が下がって聞えない状態。内耳の周波数を把握する能力自体は損なわれていないので、言葉の
   明瞭性そのものは失われていない、「あ」なら「あ」の音がかすれもにじみもせずに全角の「あ」が半角の
   「ぁ」になった状態。ラジオやテレビのボリュームをしぼったような聴こえ方になります。

 感音性難聴は、内耳の低音域から高音域の周波数を感知する有毛細胞の部分の機能不全であり、音量を
   把握する鼓膜や中耳の能力には異常がなく、周波数を把握する内耳の能力にムラが生じているために、
   言葉や音の輪郭の明瞭性が欠けたり失われる状態となり、「あ」なら「あ」の音の音量は失われていないが、
   「あ」がかすれてしまって別な音に聞き違えるか、音に輪郭がなくなった状態で雑音の様になります。
   周波数をとらえる能力がバランスを欠いているために音量が下がって聞こえるが、音量を補うよりも
   バランスを欠いている部分の周波数を適切に脳に伝えてやれば聴こえるようになります。

 混合性難聴は、伝音性難聴と感音性難聴が二つ同居しているという難聴で、聞こえ方としては全角の「あ」が
   半角の「ぁ」になったうえにかすれているという、音量も明瞭性も失われているという聴こえの状態です。 

 老人性難聴は、加齢による体の生理的、反射神経および肉体の解剖学的な衰えが原因の難聴で、特徴と
   しては感音性難聴と似ていますが、根本的な機能不全の場所が異なります。聴こえの状態は脳の機能の
   衰えによる音の記憶の薄れの発生により、外部から入ってくる情報が内耳の(蝸牛)側より脳の側(聴覚
   中枢)の衰えで音が認識しづらくなっていると表現するしかなく、聞こえ方としては感音性難聴に酷似します。


全ての難聴に共通して言えることは、音が入らなくなった(難聴になりはじめた)段階で脳の音の記憶も薄れて
いきます。長期間情報として来るべきはずの音が来ないと脳内の記憶が使わない筋肉が衰えるのと同じ状態に
なります。このため、音を聞くトレーニングが必要になります。


5.聞き間違えを物理学的に説明すると
 音の中でも言葉の場合、母音と子音の組み合わせによって言語としてのコミュニケーションがなされます。
母音も子音も幾つかの特定の周波数の組み合わせで構成されて母音や子音として聴こえます。耳で周波数
分解された音の分布を解析することによって、脳は音声や言語を判断または認識しています。

日本語の母音を例に単純に表現すると、音階でいう低音と高音の組み合わせによって「あ」、「い」、「う」、「え」、
「お」が周波数の分布の差によって「あ」なら「あ」、「う」なら「う」と脳で情報処理されて言葉の聴こえとして
認識されます。耳に機能不全をおこしていない限り聞き間違えはおきませんが、特に感音性難聴の場合、
音が小さくて聞こえないというより、聞き間違えをするところに一番の特徴があります。

例として「い」と「う」の場合、音階的に低音のところに同じ周波数の要素があり、2,000ヘルツを境にして2,000
ヘルツよりも高い周波数があれば「い」と2,000ヘルツより高い周波数が存在しなければ「う」と脳が認識する
ようになっています。もし、「い」と言っているのに「う」と聴こえる人がいるとすると、この人は2,000ヘルツ以上の
周波数が耳から脳に伝わっていないことになります。

「あ」、「い」、「う」、「え」、「お」の母音はおおまかに、2,000ヘルツを中心とした音域の周波数で構成されて
いますが、子音は3,000〜9,000と高い周波数帯域の周波数によって構成されており、相当複雑になって
いますので、高い周波数がきちんと耳から脳に伝わらないと、とんでもない聞き間違えが発生する原因と
なります。


6.補聴器が聴力の回復に役立っていない理由
 人間の耳は12〜20,000Hzの範囲の音を周波数分解して脳へ情報として伝え、脳が耳で周波数分解された
情報を再構成して言語や音楽、その他の音として認識します。ところが補聴器が周波数分解する周波数域は、
100〜6,000Hzと電話機と同じ程度の会話音の範囲と同じで狭く、子音が分布する高い周波数帯域のかなりの
部分を無残にもバッサリと切り捨てています。この結果、補聴器ではこの帯域に属する音、特に言葉の明瞭性
確保に決定的な役割を担う子音が適切に周波数分解出来ず、脳の聴覚中枢に入って来ないという問題を
抱えています。そのために構造的に低音部と高音部が切り取られた音として再生され、補聴器の不自然な音の
原因になっています。

さらに、この周波数分解帯域の幅の問題は、特に高齢者に多い老人性難聴者にとっては大きな意味を持ち
ます。老人性難聴では高音部(8,000ヘルツ前後)の聴力の低下が著しくなりますが、残念ながら補聴器は
これに全く対応出来無いため、補聴器を利用しても言葉の明瞭性が十分に得られず、言葉が良く理解出来
なかったり、補聴器をしていても聞き間違いを起こす原因となっています。

脳の音の認識は、単に会話音の100〜6,000Hzだけではなく、12〜100Hz及び6,000Hz以上の周波数部分の
不必要と思われる程の量の情報が入る事によって、意味ある音の認識に必要な情報を強調して認識しており、
脳が適切に音を認識する為には、言語としての声の再生範囲は100〜6,000Hzの限られた範囲内の音のみ
では不十分と言えます。

図T 周波数分解帯域比較図



7.耳と補聴器と聴こえの展望
 20,000Hz以上の音は超音波の領域に入り、言葉としての母音や子音や音楽鑑賞には関係無いと考えがち
ですが、音の表情としての豊かさや自然さや艶には欠くことのできない要素です。耳が難聴ではない(健聴者)
方に補聴器は必要ありませんが、音楽鑑賞のとき、音は聞えているが納得できない、言葉で表現できない
不満をよく聞きます。不満の正体は周波数分解の不足です、音の輪郭のぼやけによって脳が満足しないのです。
耳が悪いわけでも演奏される音のチューニングがずれているわけでもありません。 

ここで、健聴者の聞こえの範囲をも超える音を聞かせることが可能な「みみ太郎」という世界でも唯一16〜
30,000Hzの広範囲の周波数分解ができる不思議な補聴器を通して音楽鑑賞をして頂くと、音の明瞭さと
自然さはプロの音楽家も納得し、賞賛しました。当然難聴者にとっても、従来の補聴器の限定された周波数
分解の範囲以上の音が脳へ情報として到達するために聴こえが改善すると同時に自然で豊かな音として
認識でき、聞き間違えもなくなるという結果がでました。限定された周波数情報しか脳に到達しないと、難聴者は
聞き間違いや聴こえないということになり、健聴者は聴こえてはいるけれども満足しないということが物理的
にも明らかになったと思います。

現在の補聴器は、最新技術の塊のデジタルであり、機械的な性能としては充分ですが、物理的な法則や人体の
生理作用、特に大脳生理学的には不十分なシステムといえます。世界でも唯一16〜30,000Hzの広範囲の
周波数分解ができる不思議な補聴器「みみ太郎」は、現代の補聴器の対極に位置し、人工耳介という人間の
耳の形に着目したあっけない程簡単なものでありながら音が鮮明であり、高音域の音を低音域の音と同じ
フラットになるように耳を通過させて脳に認識させるという効果がある画期的な存在です。名刺サイズよりも
小型化できないというネックはありますが、子音の聞き分けや周波数分解域の広さに着眼して、英語などの
言語習得やより臨場感の得られる音楽鑑賞システムとしての利用がなされています。物理的な音響実験の
測定器や音響効果の確認といった様々な研究用途にも利用できる可能性がありますので、補聴器として
だけではなく研究素材や教育補助教材としても紹介させていただきます。



     本論分は「日本物理教育学会」の北海道支部の機関紙(2004年7月)及び全国版(2005年3月)に
     掲載されたものです。

     「日本物理教育学会」は昭和28年に創立され、日本学術会議の登録団体として 約1、500名の
     会員を持ち、物理教育振興の為に学会誌の発行、研究発表会や シンポジウム、国際会議等を
     開催等の活動を行う。


                                               <2005年11月16日>


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