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現状報告:2003年夏 【「お知らせ」の51番でご紹介しています。】 全国の補聴器販売店調査を実施して間もなく1年になりますが、その後も補聴器の性能確認、販売店調査、 メーカーや業界動向の注視を行っており、今回、これらを簡単にまとめてみましたので報告致します。 ■補聴器販売店 2002年度の全国補聴器販売店の実態調査以来、販売店としては幾分危機意識を持ち、販売姿勢、業界内に 於ける悪しき慣行や悪質な販売店の淘汰を目指す動きが少しながら見受けられるようになりました。しかし、 肝心の補聴器に関する知識と調整技術については全く、何の前進、向上もない状況が続いています。 『補聴器愛用会』では適宜、難聴者だけではなく健聴者の接客のプロ(ホテル従業員教育担当者等)の御協力も 仰ぎ、日本全国の補聴器販売店を「北海道」、「東北」、「関東・上信越」、「中部・名古屋」、「関西」、「山陰・四国」、 「九州・沖縄」の7つのブロックに分けて無作為抽出と定点観測の方法で随時チェックを行っていますが、旧態 依然どころか以前よりも悪くなった販売店と、効果、結果は別としてそれなりに努力している販売店と、技術と 接客姿勢に一層の磨きがかかる優良店の三極分裂構造になりつつあるようです。 これからは、今まで以上にしっかりした店選びが必要となります。> ■日本補聴器販売店協会 補聴器販売店の全国組織ですが、業界全体のレベルアップの為の組織とはなり得ておらず、「お客様よりも 自らの利益の確保の為」にのみ機能しているかのようで、又新規の加盟希望販売店を排除する排他的な 要素が見られます。これでは固定したメンバーによる旧態依然とした運営で、お客様指向による斬新な発想や 取組みは困難と考えられ、今求められている「業界浄化」と「聞こえと補聴機器の啓蒙運動」への強いリーダー シップはとても期待出来そうにありません。 ■認定補聴器技能者 補聴器は医療機器ではありますが、販売に於いては法的な基準や資格はなく、誰でも自由に取扱いが出来る 状態となっています。補聴器の販売に携わる者としての知識と技術を持つ認定補聴器技能者が存在しますが、 その保有する資格は国家資格ではなく、業界が認定する資格です。認定補聴器技能者の資格を得る為の 一連のプログラムを見てみると、その研修期間は非常に長期に渡っており、資格を取得する迄に最短で7年 かかりますが、研修内容は知識や技術に終始し、言語聴覚士の資格要件とは異なり、お客様として,又聞こえの 問題を抱える者に対する心構えや思いやり等「心、気持ち」の部分が完全に欠落しています。その結果、 お客様が強く求める“心あるスタッフ”が誕生するか否かは、全く本人任せとなっており、ここに現在の補聴機 販売店をめぐる種々の問題の根源があると考えられます。 例え研修の成績が優秀な者であっても、それは数字と理屈と技術の基本に通じているというものであり、相手と 心を通い合わせ、相手の立場で考え、対応する術を兼ね備えていない“ロボット人間”でも資格は持てるという 事になり、ここに大きな問題があります。そして、もし心・気持ち、知識、技術を持つ有能で信頼される人達が 認定されていれば、難聴者の悩みや問題は軽減、或いは解決し、そっぽを向かれる事もなく、本来3兆円規模の 大きな市場を持ちながら800〜1,000億円の小さな市場に自らを閉じ込めることも無いはずです。 ■言語聴覚士 有名無実の認定補聴器技能者に代わり、れっきとした国家資格である言語聴覚士を採用し、難聴者の為の カウンセリングと補聴機器販売を行なう店が少ないですが出て参りました。非常に喜ばしい事です。やはり 国家資格を保有し、実践的な経験も踏まえている為に、実際に店頭で言語聴覚士に対応された方の評価は 非常に高いものになっています。 只、補聴器販売店で活躍する言語聴覚士はまだまだ少なく、又今後、時間を掛け実践的に、深く補聴器と難聴 というテーマについて取り組む必要があると言えますが、これからは、言語聴覚士の常駐する補聴器販売店が 優良補聴器販売店としての必須条件にしてもよいのではないかと考えます。 ■補聴器メーカー状況 補聴器市場が潜在的に巨大であるにも関わらず、これを育てようとしないため、長年販売実績が頭打ちとなって います。この為、短絡的に目先の利益確保の通販にはしり、ますます補聴器を使用する難聴者の信用と信頼を 失墜させ、又販売店からの通販に対する批判を受けているにも関らず、止めようとしない姿勢には疑問を通り 越して呆れざるをえません。一部のメーカーがまがりなりにも補聴器への信頼を取り戻すべく奮闘していますが、 現実的には見当違い、或いは問題のある対応が多く見受けられ、本来のあるべき姿から見れば滑稽さすら 呈しているというところです。 ○能力不足の販売店に対し徹底した技術指導をする代わりに、自社(メーカー)スタッフを短期的に販売店に 派遣するというその場しのぎの対応。 ○宣伝広告で一時的に客集めをし、販売しようとするのは不適切。じっくりと腰を据え、後々までの納得いくアフター ケアを提供する姿勢がまだまだ不充分。 ○宣伝広告は抽象的で、補聴器の機能、性能のアピールに終始。もっと具体的にお客様に伝える必要あり。 例えば、「伝音性難聴の特徴はどんなもので、聞えはこうなるので、だからここをこのように補正すれば明瞭な 聞こえが得られるようになる。この補聴器の持つこの機能は、こんな働きや効果があり、これは伝音性難聴 による聞こえ辛さのこの点に対しこのような効果があり、この程度の聞こえの改善が期待出来る」。 ○性能、機能を訴えるならその評価基準を業界で統一するのが先決。基準が不確か、或いは異なる基準の 「当社比」云々は、単にお客様を惑わすのみで意味なし。 既存メーカーの中にはどうにもこうにも実績が思うようにあがらず撤退するメーカーが出ているのと、買収や 合併、資本提携等の動きも加速していますが、一方、新たな動きが感じられるのは、大いに歓迎すべきこと です。 中小のユニークな技術力と誠意でお客様に相対する新規参入メーカーが登場しつつある一方、市場調査の結果、 補聴器市場を将来の超有望市場と位置付け、資本力と技術力を持つ幾つかの巨大異業種メーカーが参入を前提に 検討する動きもあります。 ソニーがなぜ失敗したか、HOYAがなぜ撤退したのか、補聴器市場とはどのような市場なのかと言う事を充分に 研究し尽くし、私的な組織の『補聴器愛用会』へすらも真摯にアドバイスを求める態度には爽やかさが感じられます。 新規メーカーが興味を持つということは、この市場は大きく、肥沃で、まだまだ開拓の余地ありと判断するからで しょう。停滞し、競争原理の働かぬ補聴器業界に新風が吹く日の訪れが楽しみで、大いに期待が高まります。 ■補聴器開発状況 2002年度は優秀、且つ使える補聴器がデジタル補聴器ディーバを含めて数機種発表されましたが、2003年度 発表の補聴器には注目に値する製品は全く見当たりません。外見のリニューアルに留まり、念のために分解調査を すると、中身の電子回路は旧式な部品をそのまま流用している製品と、電子回路に内蔵されている音の補正の 為のソフトが多少変更されただけのものです。因みに、健聴者を含む複数による比較試聴では、「音としてはむしろ 劣化してしまっている」というお粗末な結果となりました。 興味ある動きとしては、“みみ太郎”の自然で、脳にしみ通る聞こえの効果に関心がもたれ、この秘密の研究が 一つのテーマとなっています。その他、後発メーカー数社の試作品にデジタルではないが、廉価な電子回路で 明瞭性の高い聞えをもたらすシステム等、画期的と言っていい製品が研究されており、今後が楽しみな状況です。 奥平 知明 <2003年8月16日> |