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補聴器業界へ一言 「補聴器メーカーや販売店、それに関係団体って私達の為に何してるの?」という問いを受けた事があります。 多くの業界にはそれぞれ団体があり、業種にもよりますが、対外的には社会への貢献、お客様への情報提供、 製品・サービスの周知や顧客満足を得る為の活動をし、対内的には品質向上、市場や顧客ニーズの調査、 研究、業界人に対する情報提供や研修を通しての人材育成等々の活動を当然の事として行っています。 厚生労働省の調べでは我国で補聴器を必要とする人の数は600万人程と報告されています。この数字を基に、 少し現状を考えてみましょう。 現在の補聴器出荷台数は年40〜50万台で、仮に補聴器1台の平均単価を20万円とすると800億〜 1000億円の市場といえます。 一方、厚生労働省の数字を基に補聴器必要者数を500万人と厳しく見積もり、1人、補聴器1台使用でその 単価を20万円とすると、、、、そうです、“1兆円市場”です。その半数が両耳装用すれば“1兆5千億円市場” です。 800億〜1000億円市場 対 1兆円〜1兆5千億円市場 この大きな差はどこから来るのでしょうか? 新聞、帝国データバンク等の調査研究機関の資料、補聴器販売調査実績等を総合すると「聞こええが不自由 で補聴器の助けを借りたいと考え、一、二度試してみたが、補聴器が合わず、駄目で諦めた」という人の数は 補聴器使用者の20倍以上に達するという結果になっています。 では、何が原因で、今まで数え切れない数の人達が必要にもかかわらず、補聴器を見限ったのでしょうか? そして、何故、今も補聴器を使おうとしないのでしょうか? 医療品である補聴器は知識、経験ある専門家により本人に相応しい補聴器が選ばれ、適切に調整されれば、 素晴らしい音の世界を約束してくれる頼もしい器械です。補聴器を見限った人達の場合は、相応しい補聴器が 選ばれず、適切に調整されなかったからではないでしょうか。 医療品であり、調整を必要とするその補聴器を作るメーカーは自社製品を取扱う販売店に十分な情報や資料の 提供、また十二分な研修、技術指導を行っているのでしょうか? 医療品であり、専門的な調整を必要とするその補聴器を販売し、収入を得ている販売店はその補聴器を必要 とする人々の問題を把握、理解し、且つ取扱うその補聴器について熟知し、十二分に調整する技量を備えて いるのでしょうか? 医療品であり、調整を必要とするその補聴器の製造者及び販売者の関係団体はお客様に対する「聞こえに ついて」、「補聴器について」等の十分な情報提供と啓蒙活動、及び業界内の自浄の為の努力を行っているの でしょうか? 出荷台数、年間40〜50万台、市場規模800億〜1000億円! これは、補聴器が社会に受入れられていない証しに他なりません。 今まで補聴器を使わざるを得ない人達の存在を無視或いは軽視し、市場を育成せず、「売りさえすれば事 足れリ」として来た必然的な結果と言えなくもないでしょう。 現在も補聴器業界は1兆円を超す“宝の山”市場を育てる事もせず、小さなパイを奪い合い、あろう事か 医療品であり、調整を必要とする自社の製品を補聴器メーカー自ら、或いは隠れ蓑を使い通販で、直接販売 までし始める有り様。 また、“聞こえと聴こえの違いが分からず”、“ボリューム調整を補聴器調整と思い込んでいる”ような補聴器 販売店が全国に蔓延している現状に対し、今、お客様(消費者)が求めているのは、自らの業界浄化と整備、 それにお客様の求めに真正面から取組み、目に見え、分かる形で応える事です。 そしてこれが、冒頭の「私達の為に何してるの?」に対する答えとなるでしょう。 毎年、耳の日や補聴器の日となると変り映えのしないイメージ広告を見かけますが、この予算で販売店用に 「補聴器販売店たる心構えの基本」、「耳の仕組みと聞こえのイロハ」、「補聴器の調整方法」、「接客の基本」、 又お客様用に「耳の仕組みと聞こえについて」、「補聴器を選ぶポイント」、「補聴器装用時の留意点」、 「補聴器・補聴器販売店との付き合い方」等々の分かり易く、内容のある小冊子を作成し、全販売店及び それを求める人々に無料で提供するなど容易い事でしょう。 この厳しい経済状況下で、先端技術関係は別として、既存の商品で現在の10倍にものぼる未開拓、且つ 容易に開拓し得る有望な市場を持つ産業は決して多くない筈です。補聴器市場はその数少ない、誠に 恵まれた市場といえます。襟を正し、なすべき事をなせば、どれほど多くの難聴者が救われ、同時に補聴器 業界としての繁栄と永続性が約束されるかは論を待たない筈です。 今年も3月3日の「耳の日」が近づいて来ました。この現実、この現状に対しどんな建設的な取組みがなされるか 楽しみですね。皆で見守る事としましょう。 平成15年2月22日 『補聴器愛用会』 松谷明人 |