『補聴器愛用会』
お知らせ
補聴器愛用者への路
聞こえについて
 聞こえについて
 聞こえの仕組み
 聞こえの自己診断
 聞こえが悪くなれば
難聴について
 聴力検査とオーディオグラム
 難聴の種類
 感音性難聴と聞こえ
補聴器について
 聞こえと補聴器について
 補聴器の両耳装用について
 補聴器への期待
 補聴器について
 補聴器の購入
 選択-調整型補聴器
 選択-調整不要型補聴器
 期待して良い補聴器
補聴器の使い始め
 補聴器の使い始め
 より良いコミュニケーション
 補聴器の取扱い
明日を拓く
 調整型補聴器の今日
 調整型補聴器の明日
 調整不要型補聴器の今日・明日
 明日の補聴器愛用者の姿
補聴器の歴史
 耳穴への道のり
 補聴器ジュエリー
補聴器市場・業界
 未だ満たされぬ、、巨大市場
 補聴器の普及に関する私案
 難聴者、補聴器を取巻く環境
 新たな旅立ち
 補聴器業界へ一言
Dr.Miekoコーナー
 アメリカ便り
言語聴覚士コーナー
 ツッチーの独り言
体験談
 メニエール病と補聴器と私
応援します
  <補聴器相談シート>
 補聴器相談シート
  < 製 品 >
 調整不要型補聴器(NPシリーズ)
 超磁歪骨伝導ヘッドフォン(フィルチューン)
 ヘッドホン型補聴器(np606)
 聴覚援護機器(シルウオッチ)
 ラジオ(きき楽)
 振動腕時計(Wake V)
 不審者撃退(ロボドッグ)
補聴器電池
 補聴器用電池の寿命について
 電池倶楽部
関係者のあいさつ
ご意見、情報提供
(個人的なご相談には応じておりません
 のでご了承下さい。)
    

Dr. Miekoコーナー










       ■ 自己紹介
       ■ レポート その 1   オーディオロジスト(聴こえのお医者さん)について
       ■ レポート その 2   難聴に対する自覚と認識
       ■ レポート その 3   装用者の意識と振る舞い
       ■ レポート その 4   補聴器装用者の補聴器に対する満足度
       ■ レポート その 5   オーディオロジストの生い立ち
       ■ レポート  その 6   オーディオロジストについて
       ■ レポート その 7   “和製オーディオロジスト”について
       ■ レポート その 8   調整の受け方
       ■ レポート その 9   第17回米国オーディオロジー学会年次大会
       ■ レポート その10   耳鳴りと難聴と補聴器
       ■ レポート その11   補聴器と電話の磁気
       ■ レポート その12   バレンタインデーと補聴器
       ■ レポート その13   騒音抑制回路と環境適応型指向性マイク
       ■ レポート その14   補聴器の使用と脳のトレーニング
       ■ レポート その15   騒音に対する許容度
       ■ レポート その16   高齢者難聴を考えるセミナーのご案内



                  

 


    
【 「お知らせ」の58番でご紹介しています。 】



自己紹介


渡米して22年。日本の大学を卒業し、高校の英語教師として数年勤めた後、2〜3年の計画で、アメリカで言語学の
修士を取り、ドイツに渡り、ドイツ語を修得する予定が、アメリカでの1年目で専攻を変えたのが人生の大きな転機と
なってしまいました。

オーディオロジーの修士課程を終え、資格を取り、一人前になった時に日本での就職口を探しましたが、残念ながら
日本には資格を生かせる仕事が無かったため、アメリカで仕事を続け、現在に至っている次第です。

アメリカでは、現在オーディオロジストを修士からドクターにアップグレイド(昇格)させる転換期の最中で、私も2年
近くの通信教育を修了し、ドクターの資格を得ました。

                            Mieko Tanaka, Au.D
                            Doctor of Audiology
   
  (『補聴器愛用会』注
    オーディオロジー(Audiology)は辞書では聴覚学、オーディオロジスト(Audiologist)は聴覚学者となって
    いますが、片仮名で表わされるのが一般的のようで、オーディオロジストを強いて訳せば「聴覚専門ドクター」
    で、難聴の診断、治療、補聴器の取扱い、リハビリ、難聴の予防等を行います。)





   

Dr. Miekoレポート その1


 日本の皆様、はじめまして。

私はアメリカ在住のオーディオロジストで、十数年大きな耳鼻咽喉科クリニックに勤めた後、独立して、オーディ
オロジークリニックを経営しています。耳鼻咽喉科に勤めていた時は補聴器に携わる割合は50%でしたが、
現在は、95%は補聴器に携わっています。

1年ほど前に日本語バージョンを備えたコンピューターを購入し、日本語でのやりとりが簡単に出来るように
なったのが切っ掛けとなり、日本のホームページを探索している際に“補聴器愛用会”に、出会いました。
日本の補聴器の現状は以前から耳にしていますが、補聴器使用者による厳しい現状把握に感心させられながら、
読ませていただきました。

さて、アメリカでの補聴器世界の状況ですが、まず、アメリカではオーディオロジストとヒアリングスペシャリストが
補聴器の取り扱いに関わっています。

オーディオロジストはオーディオロジー専門の修士課程を修了した後、国家試験に合格し、9ヶ月のインターンを
経て一人前になります。オーディオロジーの分野は広く、electro-physiological tests(*)>に専念したり、小児
オーディオロジー、教育オーディオロジー、耳を騒音から守るための企業オーディオロジー、そしてリハビリ
テーションオーディオロジーなどがあります。近い将来には大学で4年学んだ後に更に4年間のDoctor of
Audiologyのコースを修了しなければオーディオロジストにはなれません。
                      (*:電気生理学の分野で聴性脳幹反応聴力検査などを行う)

言語専門士は言語専門の修士課程を取ります。ヒアリングスペシャリストは高卒で、1〜2年補聴器店で経験を
積んだ後に州が実施する試験を受験します。現在の日本の補聴器販売店の認定補聴器技能者とほぼ同じような
ものです。

アメリカでは、以前は今の日本のように補聴器販売店にはヒアリングスペシャリストが多かったのですが、
現在では、補聴器の取扱いは相応しい資格を持つオーディオロジストの方が、中心となっています。

実は、補聴器クリニックを経営するオーディオロジストの数は増えていますが、アメリカでの補聴器の市場は
なかなか思うように広がりません。

さて、どうしてかは、次回へ。

                                                   Dr. Mieko
  
                                                 <2003年9月14日>



     

Dr. Miekoレポート その2


 皆さんもご存知のように、日本の補聴器の普及は長い間横ばいで、「アメリカと比べると普及率が低い」という
ことがあちこちでいわれています。確かに日本の補聴器普及率は非常に低いものだと思います。
10数年前にHearing Healthという雑誌に日本の新幹線の“速さ”、電気、電子機器の普及の“速さ”に比べ、
補聴器の普及は大変“遅い”と書いたことがあります。実際、アメリカ人に日本の補聴器の現状を話すと彼らは
驚きます。彼らは性能のよい車、電気、電子機器の普及と比べるからです。

しかし、実はアメリカでも難聴者に対しての補聴器の普及率がなかなか上がらないのが現状です。
“健康フェア”などで、「聴覚のスクリーニング検査をしませんか」という言葉に気分を害する人も少なくありません。
血圧の検査、視力の検査、血糖値の検査などには列を作るのですが、“聴覚に関する”事には見えない振りを
して通りすぎます。

聴覚の低下(突発性難聴を除く)というのはなかなか本人に認知されにくいものです。視力が落ちれば本や
新聞の字がぼやけて読めなくなります。本や新聞の活字は変わらないので、私たちは自分の視力が落ちた
ことを認めます。しかし、聞こえというものは他人とかかわるもので、もし、ある人の会話が聞き取れないと
その人の話し方が悪いと他人のせいにします。

年をとるにつれて多くの場合、聴覚は低下するのが自然の成り行きなのですが、なかなかこの事実が理解
されません。70歳、80歳になっても“聞こえの低下”を受け入れることに時間がかかります。視力の低下、
皮膚の変化、白髪化、体力の低下と同じものだと説明するのですが、、、、。

聴覚の低下を認めるのは“老化”を認めることになってしまうのでしょう。確かに“目”の老化(白内障)は
最近ではレーザー治療でメガネも必要なくなりますし、顔のしわは整形手術をすれば若返ります。聴覚の
補聴は補聴器でと分かっていても、補聴器の装用は他人から“年をとった”と思われるので、嫌がられます。

アメリカでの補聴器普及をはばんでいるもの:
 ・本人に聴覚低下の認識がないこと (聴覚低下の否定)
 ・補聴器は老化現象の象徴とする考え
 ・補聴器の価格の高さ
 ・補聴器装用者のネガティブ(否定的)な意見

又、聴覚は生死に関わることが少ないからかどうしても医学的に後回しにされてしまいます。アメリカの一般の
医師や家庭医は血圧、コレステロール、糖尿病の検査は毎年のように患者に勧めるのに、聴覚の検査は本人が
言い出さないかぎり、勧めません。現在、アメリカのオーディオロジストはこの点を問題視し、一般の医師や家庭医
への啓蒙の輪を広げています。


次回は“補聴器装用者の意識、状況”に触れてみます。

                                              <2003年10月11日>



   

Dr. Miekoレポート その3


 こちら(アメリカ)では10月31日のハロウィーンが過ぎ、次は感謝祭がやってくるのに、巷ではもうクリスマスの
広告や商品が出回っています。

今回の“補聴器装用者の意識”というテーマはとても大きいものでどう取り組もうかと、私の1人1人の患者さんの
ことを思い浮かべてみました。

私の患者さんの中に、補聴器を装用にしているのを職場の人に知られたくないようにしている人がいます。
40歳代後半の女性で、中堅クラスの仕事をしているようです。補聴器のことがわかると仕事への能力が
疑われるのではと彼女自身が懸念しています。

一方、図書館司書をしている30歳半ばの女性は初めは見かけを気にし、CIC(Completely-In-Canal:完全に
耳穴の中に入るタイプの補聴器)を選んだのですが、閉塞感になかなか馴染めず、カナル(通常タイプの耳穴式
補聴器)に替えました。彼女は見かけより、機能を選び、職場や家庭での聞き取りの向上を楽しんでいます。
彼女の場合、周囲がどう反応するかはあまり、気にならないようです。

よく補聴器を装用したがらない理由に、「ハンディキャップがあるようにみられるから」という項目を見かけ
ますが、実際には“補聴器=ハンディキャップ”という考えは少なくなってきているように思えます。前回報告
しましたように”補聴器=年寄り“という考えは根強く広まっています。

補聴器装用者の意識は本人の性格にもよるでしょう。まだ現役で仕事をし、補聴器両耳装用経験20年という
65歳の男性がいます。1対1の会話は問題がないのですが、何人かでの会話は困難になるので、仕事の話を
している時に他の者同士が話し始めると“1人1人、私の方を向いて喋ってくれ”とはっきり言うのだそうです。
(真正面を向き話されると、より良く聞こえると同時に、相手の口の動きや顔の表情を通し話しの内容の理解が
増す為)

現役で働いている補聴器装用者達にとっては、職場での補聴器装用者や難聴に対する理解の度合いで、
意識の相違が出てくるでしょう。これは職場だけでなく、家庭でも同じことです。
家族の者が“補聴器をつけているんだから、聞こえるはずでしょ。”と隣の部屋から、又は後ろの方から、話し
かける例がよくあります。どうしても補聴器を“007”の映画などで見るハイテク機器のように考えられてしまって
いるようです。

こういう場合に必要なのは家族へのカウンセリングです。補聴器のフィッティング(調整)の際には必ず、家族に
同伴してもらい、補聴器の限界を説明するのですが、家ではそのことが忘れられてしまうようです。継続的な
家族へのカウンセリングが必要なことはあきらかです。

職場に対しては、会社や上司の理解が低い場合は、教育的な印刷物を読んでもらうようにします。難聴という
ものを理解しているのだけれど、どのようにサポートをしたらよいのかがわからない人も多いのではないでしょうか。
   
(日本もアメリカも同じではないでしょうか?)

                                               <2003年11月16日>




     

Dr. Miekoレポート その4


 「補聴器装用者は補聴器に対し、何に、どの程度満足しているのか、或は満足していないのか?」というテーマは
補聴器装用者自身のみならず関係者にとっても大いに関心のあるところです。今回は“補聴器装用者の満足度”に
ついて行われたアンケート結果についてお知らせしましょう。

補聴器関係の月刊誌「補聴器プロフェッショナル(2002年10月、11月)」に掲載されたものですが、アンケート調査の
詳細は次の通りです。
   実施時期  :2001年4月
   調査方法  :調査用紙を郵送し、回収
   調査対象者数:補聴器装用者3,000人
   回答者数  :2,610人(回答率87%)


 ■今回の調査結果と10年前に実施された同様の調査結果とを比較し、満足度の変化を表したものです。

  □満足度が上がった
    補聴器販売者
    使用中の補聴器(使い物になっている)
    ハウリングの問題が少なくなった
    騒音下での聞き取りが“やや”良くなった
    電話や野外活動での使用

  □満足度がやや上がった
    うるさい音や大きな音が緩和された(苦にならなくなった)
    音楽の鑑賞
    仕事場での会話

  □満足度が落ちた
    自分で音量調節が出来ない(デジタル式等音量調節機能のない補聴器が増えた為)
    電池交換が不便、面倒(小さな補聴器が増えた為)
    補聴器が人目に付く(耳かけ、大型耳穴式)

 
 ■「満足度が低い」と答えたその原因や理由
   騒音下での聞こえが悪い
   大勢の人の中での聞取りが悪い
   電話の声が良く聞こえない
   コンサートや映画で満足に楽しめない(音量、音質)
   ハウリングの問題


 ■補聴器が使用されずにタンスにしまわれている原因や理由
   使ってみて別に聞こえが良くなったとは思えない
   周囲の音がやかましく、言葉の聞取りが出来ない
   補聴器がフィットしていない
   補聴器の価格と高額な修理代


 ■今後、改善されるべきものや取り組むべき課題
   騒音下での聞取り
   音質の向上
   多人数での聞取り能力の向上
   製品(補聴器)の信頼性
   約束通りのサービスやアフターケアの提供



上のアンケート結果の中にも表れていますが、デジタル補聴器の性能の向上と機種が増えたことにより、問題への
対処がし易くなってきています。しかしながら、“聞こえ”というものは人それぞれ異なり、オーディオグラムや語音
検査では掴み切れないなかなか複雑なもので、補聴器フィッティングは一筋縄にはいかないものです。

簡単に満足してもらえることもあれば、なかなか満足が得られないケースもあります。検査結果が同じ様でも、
Aさんに合う補聴器がBさんに合うとは限りません。また、一番高い補聴器が一番良いというわけでもありません。

自分に心地よい補聴器、補聴器を心地よくしてくれる補聴器販売者に出会うことが満足への一歩でしょう。
Wishing you a merry, bright, delightful Christmas and a Happy New Year!!!

                                              <2003年12月20日>



     

Dr. Miekoレポート その5


 お正月気分が味わえないうちに2004年が走り出しています。こちら、アメリカでは日本のように“暮、お正月”の
長いお休みはなく、1月1日だけの休日で、2日からは平常通り。なんと情緒のないものかと、いくらこちらに長く
いても生まれ育った文化からはなかなか抜けきれないものです。

さて、昨年から、日本とアメリカの補聴器分野の比較をということでこのウエブサイトに登場させていただいて
いますが、どうも日本の補聴器の販売のされ方がアメリカよりも遅れているということに終わってしまいます。
(これも事実ですが) ですから、新しい年に入り、少し趣を変え、ときには実用的な内容(指向性、テレコイル、
なぜゆっくりした話しが聞きやすいのか、等)を考えています。

このウエブサイトで日本とアメリカの補聴器に関わる専門家の比較がなされていますが、今回は“オーディオロ
ジスト”、“オーディオロジー”を理解していただくために歴史的背景をお話します。

オーディオロジーAudiology(辞書では“聴能学”と訳されています。)は第2次世界大戦中において、軍隊のリハビリ
テーションの一環として生まれました。兵隊たちが戦場から帰ってきて、難聴や耳鳴りで医者に診てもらうのですが、
外傷もなく医者としては何も出来ませんでした。そこで、聴覚の検査をしたり、その対処つまり補聴、補聴器などの
世話をする専門家が必要になってきたのです。また、これらのことを追求するために2、3の大学で研究が始まり
ました。

オーディオロジストの役目はあくまで、検査、評価と読唇などの聴能訓練で、患者に“薦めた”補聴器に関しては
全くかかわっていませんでした。1950年半ばあたりから、いろいろな聴覚検査の方法が考え出され、医学界からも
注目され、オーディオロジストが聴覚検査の専門家と認められるようになりました。
この頃から、オーディオロジストは補聴器を“薦める”のではなく“処方する”という言葉を使い始め、補聴器スペシャ
リスト(補聴器販売店員で一定の資格を持ったもの)にまかせないで、補聴器の型やブランド、機能を指定する
ようになったのです。

そして、このあたりからオーディオロジストと補聴器スペシャリストとの綱引きがはじまったのです。
オーディオロジストは「補聴器スペシャリストが聴覚検査を“宣伝”として使うようになった」ことに、そして補聴器
スペシャリストは「オーディオロジストが補聴器に関して専横的な振る舞いを行うのではないか」との危惧を抱く
ようになりました。

当時はASHA(American Speech and Hearing Association, アメリカ言語聴覚協会{注}言語協会がすでにあり、
1950年頃オーディオロジストのグループが合併)の会則の中で、「利益を求めてはいけない」ということで、
オーディオロジストによる補聴器の販売は禁止されていました。そんな中で、オーディオロジスト達は補聴器
フィッティング後のフォローアップに問題があり、多くの難聴者が犠牲になり、苦しみ、困っていることを知り、
オーディオロジスト自身が補聴器の取り扱いの全てに責任をもち、難聴者の生活向上を手助けしようとの運動が
始まったのです。

1978年、ASHAはようやく会則を改め、オーディオロジストは補聴器の販売が出来るようになりました。
1979年には補聴器販売に関係したオーディオロジストは900人と記録されています。(現在、約13,500人)

以上の歴史的経緯が示すように、オーディオロジストは「自分達の役割は難聴者を見つけ、難聴者が普通の
(健聴者と同じような)日常生活が送れるように手助けすること」と繰り返し教えられます。私自身が学んだ大学
での習得も "habilitation and rehabilitation"(リハビリ)に尽きました。

ですから、オーディオロジストは補聴器の販売に従事していても、心の奥にはこの倫理観があり、その気持ちで
常に難聴者と接しています。

今回は補聴器に関わる部分のお話しでしたが、実はオーディオロジストにはもっと多くの専門分野があります。
オーディオロジストはどのようなことを学び、どのような分野で活躍しているかを次回にお話ししたいと思っています。


(独り言)
こちらでは補聴器に関わる人々をhearing aid dispenser"(ディスペンサー)と言います。日本語では「補聴器
販売従事者」と「販売」と言う言葉があります。私はどうもこの「販売」という言葉は好きではありません。何か
他に良い言葉はないものでしょうか?

                                                 <2004年1月24日>



    

Dr. Miekoレポート その6


 『補聴器愛用会』さんの連載物や、こちらの事情で少し掲載をお休みさせて頂きましたが、また筆が取れる
状態となりました。英語で言えば、“I'm excited to be back.”というところでしょうか。
(『補聴器愛用会』訳:「又、がんばります!」、という有難い決意表明。)

前回はオーディオロジストの歴史的な背景をお話ししました。今回は“オーディオロジストはどのようなことを学び、
どのような分野で活躍しているのか”ということに触れてみたいと思います。

辞書によるとオーディオロジー audiologyは“聴能学(聴覚障害者の社会復帰と、聴覚機能損失の診断および
検査を通じての聴覚障害の研究)”、オーディオロジストaudiologistは“全面的又は部分的に聴覚機能が障害
されて意思疎通が不能となった人々に対して、評価、生活指導、リハビリテーションを行う専門家”とあります。

以前にもお話いたしましたが、アメリカではオーディオロジーとスピーチパソロジー(言語治療)は同じ学部にあり
ますが、大学院のコースはそれぞれ独立しています。大学の4年間では両方の基礎コースをとり、コミュニケー
ション障害の全般的なことを把握します。具体的には音声学、言語発達入門(生まれてからの語音、言葉の発達、
コミュニケーション障害学入門、言語聴覚にかかわる解剖学と生理学)等。

オーディオロジーの大学院でのコースは専門分野の学習にどっぷり浸かります。
 〇聴覚に関わる解剖学・生理学、神経科学、遺伝・症候群による難聴、生体臨床医学の倫理、医療システムの
   こと等の医学的なもの。
 〇補聴器、人工内耳などの補聴機器について。
 〇音響学、心理音響学、言語認識、社会・産業騒音、大人の聴能リハビリテーション、中枢聴覚処理等々。
 〇医者のコースと同じように臨床実習にも多くの時間があてられています。


さて、このように聴覚に関して、みっちりたたき込まれ、学校を卒業した後は個人の興味、関心のある分野に
より働く場が異なってきます。
 □多くは臨床オーディオロジストとして病院や耳鼻科医院に勤めますが、目まいの検査、聴性脳幹反応の
   検査等は検査の実施、分析、診断結果もオーデイオロジストに任せられます。
 □そのほか、小児科専門リサーチ騒音対策・管理の専門分野があります。
 □手術室で聴性脳幹反応のモニターを専門にする人もいます。
 □最近ではレクリエーション オーディオロジーという分野もあります。ハンティングでのライフルの発射音、
   自動車サーキットでの騒音への対策がそれにあたります。
 □また教育オーディオロジストというのは聾学校だけでなく各市に何人か雇用され、学校での聴覚検査、
   難聴児、補聴器の管理をしています。
 □今の私の場合は、補聴器が中心の仕事ですから、臨床というよりディスペンシングオーディオロジストと
   いうことになります。(私の仕事の中には臨床、小児科、騒音も入っていますが。)

というようにオーディオロジーの分野はなかなか広いものなのです。


最後に、私のクリニックが患者さんに発行するクリスマスニュースレターの一部を簡単にご紹介します。
アメリカでは11月下旬の感謝祭、それにクリスマスは家族が集まる機会です。そこで、多くの人達が集まる
中での“聴くための戦略”を2つ挙げてみました。

先ず、高性能の補聴器はよく聞こえるようになっていますが、周囲の環境音も人の声と同じように増幅されて
しまうので、聞きたいもの(人の声、音楽など)を聞くにはやはり音源に近づかなければなりません。距離が
遠くなればそれだけ対象となる音が小さくなるのは当然のこととしておわかりでしょう。

次に、難聴者にとって複数の人達が同時に話しているのを聞き取ることは困難なことです。家族や友人の
グループの場合、二人以上の人達が同時に話しをせず、一人ずつ話してもらうという約束事を作ってはいかが
でしょうか。音楽やテレビの音がうるさければ、音を低くしてもらうか、消してもらいましょう。しかし、もしこれが
出来ない場合は静かな場所を見つけ、話したい人と話すようにしましょう。

より良い聞こえと楽しいおしゃべりの為に少しずつ周囲の人達をうまく「教育」していきましょう。


Happy Holidays and a Happy New Year!!!

                                              <2004年12月11日>




     

Dr. Miekoレポート その7


                                                   2005年1月4日

 あけましておめでとうございます。

大西洋の日の出は今年は残念ながら雲で水平線がさえぎられてしまいましたが、元旦から春のようなお天気が
続いています。

今回は“ 和製オーディオロジスト“ について皆さんに注意を喚起したく、この問題についてお話ししたいと
思います。

昨年、日本の補聴器販売者のなかにオーディオロジストと自称されている方々がいることを知りました。
そこで、American Academy of Audiology(AAA)のウエブサイトで日本のメンバーリストを検索したところ、
名前は確かにあります。確かに会員です。しかし、この会の会員であることが即ち、米国で言うオーディオロ
ジストと全く同じ資格を持っているかというと、必ずしもそうではありません。

米国でオーディオロジストと称するには次の資格要件を全て満たす必要があります。
  @米国の大学、大学院で所定の専門知識を習得し、卒業した後、
  Aインターンを経て、
  BAmerican Speech Language Hearing Associationの認定証を取得する。


ここで話題にしているAmerican Academy of Audiologyの会員には3種類あります。
 (1)正会員 :オーディオロジスト(上記の資格要件を全て満たす者)
 (2)準会員 :大学院で聴覚分野の専門知識を修得した者。(オーディオロジストでなくてもよい。
 (3)海外会員:専門分野は問わず大学卒で、補聴器関連の仕事に従事する者(この資格を
         満たせば誰でも会員になれる。)

問題はAmerican Academy of Audiologyのホームページの米国以外の国の会員名簿には(1)、(2)、(3)の
区別がなく、全て“オーディオロジスト”として人名が載せられていることです。

日本で米国のオーディオロジストの資格を持たないであろうと思われる人たちがオーディオロジストと称している
事実をAAAの委員長に問い合わせたところ、「ホームページで海外会員の名簿では(1)、(2)、(3)の区別は
できない。それはその国の問題でAAAとしては申請があれば書類審査で事務的に海外会員として誰でも登録
している。」という返事でした。

最近は日本でも医学界、教育関係などでオーディオロジー、オーディオロジストという言葉が日常生活でも身近に
なってきたせいかオーディオロジストと自称する人が現れてきたということでしょう。

しかし、大切はことは言葉に惑わされることなく、実体を正しく掴むことす。今までお話ししてきたことが本来の
オーディオロジストとはどんな人達なのかの理解にお役に立てば幸いです。


関連ウェブサイト:

  American Academy ofAudiology              www.audiology.org
  American Speech Language Hearing Association    www.asha.org
  Academy of Dispensing Audiologist           www.audiologist.org
     (Doctor of Audiologyを取得したオーディオロジストのみが入会できる協会)


追記
昨年10月、個人的に東京で補聴器販売者対象のセミナーを開催いたしました。

毎年、新しい方の参加を期待しているのですが、残念ながら参加者の顔ぶれは大体決まっています。しかし、
参加者は難聴、補聴器に関して学術的に、実践的に常に熱心に取り組まれている方々ばかりです。

どうして皆さんの熱心さを知っているかというと、1991年頃から私は補聴器メーカーが主催するセミナーの
お手伝いをしてきまして、その人達を存知あげているからです。常に新しい情報を積極的に取り入れ、知識や
技術を向上させている方々です。

全体からみるとこのような人達は少数であるのは事実で残念に思いますが、難聴者の皆さんにはこのような
熱心な補聴器販売従事者がいらっしゃることを理解していただきたいと思います。

                                               <2005年1月8日>




    

Dr. Miekoレポート その8


                                                     2005年3月6日

 高性能の補聴器を両耳に装用している60才の女性の患者さんが調整(adjustment アジャストメント)のために
来院しました。私の前に座ると、彼女はバッグ(アメリカではpurse パースと表現)からおもむろにメモ帳を取り出し、
ひとつひとつ書いてきたことを読み上げました。

問題点は三つ。一つ目は周囲音がやかましい(Background sound is noisy.) ということで、二つ目はレストラン
などで食事をしているとき食べ物をかむ音で人の話し声が聞こえなくなるというものです。実は入れ歯ですと
付け加えていました。三つ目は振り向いた(頭を横に振る)時にたまにハウリング(英語ではFeedback フィード
バック)が起きるということです。

一つ目の周囲音の問題は状況を詳しく知る必要があると思い、どんな音なのか、音源とはどれ位の距離が
あるのかなど色々と尋ねてみました。調整者にとっては聞こえ方について少しでも多くの具体的な情報が
あればあるほど適切な調整がし易くなるためです。

彼女が言うには「居間でテレビを見ているとき洗濯機の音がやかましく聞こえる」、というものです。一緒に来て
いた娘さんにも患者さんの日常生活や問題となっている状況などについてあれこれ尋ねた後に、先ず正常な
耳でも洗濯機の音は気になることを説明し、理解してもらいました。
その上で、彼女が補聴器を使い始めたばかりの初心者である点と日常生活での使用状況をふまえ、調整しました。

調整後、コンピューターの画像でテレビのニュースを写し、スピーカーからはコンピューターにプログラムされて
いる音のリストから洗濯機に近い音を選び、その場で調整効果を確認しました。
これで一つ目の問題は解決です。

二つ目の食べ物をかむ音の問題は、実際にその状況を再現する必要があり、患者さんにポテトチップスを
食べてもらい、食べ物をかむ音がどのように聞こえるかを確認しながら調整したところ、納得行く調整ができ、
物を食べながらでも人の声が聞こえるようになり、二つ目の問題も解決しました。

最後に、三つ目のハウリングの問題ですが、これはたまに起きるということなので、まずはどうしてハウリングが
起きるのか、その仕組みを理解してもらい、補聴器本体の作り直しの提案も含め説明しました。その理由と
仕組みが理解できた彼女の判断は、これが発生するのはほんとにたまなので、今回は手を加えず、様子を見る
ということに決めました。


ここで今回申し上げたいのは皆さんが使用中の補聴器に不具合や問題を感じたり、また聞こえの調整を希望
される場合には、それらの不具合や問題、或いは聞こえ方で気になる点など、気の付いたそのときに詳しく状況や
様子を書き留めておかれることをお勧めしたいのです。

ただ 「やかましい」ではなく、「どれくらい離れているどんな音は、どんな状況で聞くと、どんな聞こえになり、
どの程度聞こえの妨げになっているのか」、というように具体的に、色々な言葉を使って説明していただければ、
調整すべきポイントの把握が容易になり、必ずよい結果が得られます。

これはハウリングについてもまったく同じことが言え、ハウリングを感じたら「どのような状況で、どうしたら起こった
のか、またどうしたら止まった」などを詳しく書きとめておかれるとよいでしょう。

私たち調整に関わる者にとっては詳しい状況や様子を知ることにより補聴器の調整や問題への対処がしやすく
なります。是非、実行してみてください。

もちろん、補聴器の機能、調整が分かっており、その上で皆さんが抱える補聴器の問題を理解し、補聴器と
聞こえについて納得できる説明をしてくれる補聴器販売者に出会えることが必要ですが、、、。

                                              <2005年3月12日>




   

Dr. Miekoレポート その9


                                                    2005年4月18日

 American Academy of Audiology (米国オーディオロジー学会:AAA)の第17回 Annual Convention (年次大会)が
3月31より3日間、ワシントンD.C.で催されました。Annual Conventionは学術講演、教育コースなどの勉強の場と、
補聴器関係企業の展示で成り立っています。

今年の参加者はこれまでで最多の6千人(もちろんほとんどがオーディオロジスト、海外からは補聴器スペシャ
リストが多い)。企業の参加も190社と年々その数は増えています。展示は補聴器関係では世界で一番大きい
ものではないかと思われます。

広さは幕張メッセぐらいといったところでしょうか。展示ブースには、最新機器をはじめ、多くの情報が並び、その
収集を目的にヨーロッパ、ラテンアメリカ、また日本から多くの補聴器関係者が展示会場にきていました。

勉強の場としては学術講演と教育コースをあわせ113の発表があり、学術講演はアメリカ国内だけでなく、
イギリス、オーストラリアなどからもあり、その中には、聴覚科学で世界的に著名なリサーチャー(研究者)のものも
ありました。教育コースは1コマが1時間30分とちょっとした授業のようなものです。

聴覚基礎科学から補聴器、人工内耳、リハビリテーション、めまいの検査/マネジメントなど、オーディオロジー学
すべての範囲をカバーし、さらにクリニックマネジメントや専門家としての課題も含まれています。

多くの補聴器製造会社はこのAAAの年大会をめどに新製品を発表しています。今回ではGNリサウンドの
“Air(エアー)”に追随しようと数社から“オープンイヤー”補聴器の発表が目立ちました。

日本では軽度難聴や低音が正常で高音だけが難聴の高周波数難聴をもつ方々の補聴器使用率がとても低い
ようなのでこれはあまりはやっていないと聞きましたが、アメリカでは“オープンイヤー”補聴器のマーケットが
伸びています。

もうひとつ新しい補聴器の機能は補聴器に電池の使用時間、どのプログラムを多く使っているか、音量調節などの
データが保存され、補聴器販売者がそのデータを見ることができるものが数社から発表されていました。これは
補聴器販売者として補聴器使用者とのカウンセリングに大変役立つものだと思います。その他、Bluetooth
(ブルーツース)技術をとりいれた機器が多くなっています。

このようにAAAの年大会は学術的に、技術的に新しい情報を幅広く取り入れる格好の機会です。
できるだけ毎年の参加をこころがけています。

                                                 <2005年4月24日>



    

Dr. Miekoレポート その10


                                                   2005年7月29日

 暑中お見舞い申し上げます。

こちらは米国全土を覆ったHeat wave (熱波)がようやくおさまり、一息ついているところです。この原稿を送ろうと
“補聴器愛用会”をのぞいてみましたら、“ツッチーさん”の難聴経験を知りました。偶然にわたしの話題の一部と
同じで、面白いものです。

この補聴器愛用会では“耳鳴り”のお話が続いていましたね。実はその“耳鳴り”についての講習会に参加して
から、投稿文を書こうと思っていましたが、都合で、参加が不可能になってしまいました。

まずは私自身の経験談をいたしましょう。わたしは一時的に聴力が落ちたことがあります。15年ほど前でしょうか。
ある土曜日の午後、夏の炎天下で、車を洗っていました。 耳鳴りはその夕方から始まり、左耳にキーンとする音が
一晩中続きました。翌朝、その耳に綿が入っているかのように感じ、耳がやや聞こえなくなっているのがわかり
ました。耳鳴りもしています。 その日の友人との会話の状況はいまでも忘れません。右耳は正常であるにも
かかわらず、耳鳴りがあまりにも大きくて、相手の話がきこえないのです。

翌日、早速、職場の耳鼻咽喉科クリニックの医者に状況を話し、仲間のオーディオロジストに検査してもらいました。
左耳の聴力は感音難聴で50デシベルに落ちていました。語音明瞭度も50%ほどです。インピーダンス検査の
ときに耳にいれる純音の刺激音も歪んでいました(ピーという純音にもかかわらず、ハーモニカの3音から4音を
まとめて吹いたような音、あるいはトランペットのような音)。医者からは飲み薬のステロイドをもらいました。
運良く、私の聴力は1週間のうちにすこしずつ回復し、以前の正常値にもどりました。耳鳴りはかすかにいまでも
頭全体に残っています。

オーディオロジストとして、聴覚低下のメカニズムは私なりに原因を分析していましたが、おもしろいことは4人の
医者がそれぞれ異なった意見を出したことです。このとき、補聴器をつけてみました。語音明瞭度が50%で
ありながらも、聞こえがよくなり、耳鳴りが静かになっているのを経験しました。

さて、米国では耳鳴りの患者さんはまず、耳鼻科医にいきますが、病的疾患がない場合は耳鼻科とのかかわりは
そこで終わり、その後の対処にはオーディオロジストがかかわります。

私のところでは、1999年にTRT (Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴り 訓練しなおしセラピー(直訳)の創始者で
あるDr. Jastrobofより直にそのセラピー法を教わり、クリニックの診療と一部となっています。こちらでは耳鳴り
セラピー料金(米国平均 30万円)は保険がききません。料金をおはなしするとほどんどの患者さんの耳鳴りは
それほど悪くないということになります。(このニュアンスわかっていただけると思います。)

そこで、耳鳴りの仕組み、対処の仕方をわかりやすく、簡潔にお話しすることにしたのですが、それだけでも
患者さんの耳鳴りへの不安がとれ、耳鳴りがあまり気にならなくなるようです。

難聴のある耳鳴りの場合は 正常聴の耳よりも対処がしやすいのです。難聴の場合は補聴器を装用することに
より、ほどんどの耳鳴りが聴こえなくなります。“ほどんど”であって100%ではありません。補聴器を装用することに
より、耳鳴りよりも環境音が大きくきこえるので、意識がそちらにいくからです。耳鳴りでも音楽のようなものが
聞こえたり、とても大きな耳鳴りの場合、補聴器を装用しても耳鳴りがまだきこえることがあります。

もちろん、難聴と耳鳴りは補聴器に飛びつく前に必ず、耳鼻科医の検診と相談をうけてください。


追記:今年も補聴器販売従事者、言語聴覚士、耳鼻科医、企業関係者のためのオーディオロジー学に基く
補聴器の講座を11月23日 東京で開催いたします。今年は特別講師、世界補聴器関連企業でつくっている
HIMSAの協力も得ることができました。詳細ご希望のかたは下記のメールアドレスまでご連絡ください。
  連絡先:miekorabano@yahoo.co.jp

                                              <2005年8月7日>



   

Dr. Miekoレポート その11


                                                 2005年12月1日

 日本でのセミナーから帰ってきたところです。 いやいや日本には“物”が溢れていますね。
コンピューターや電話の数ときたら凄いものですね。友人に思わす、「皆、どのように選択しているのか」と訊いて
しまいました。(いかに田舎にいるかということがご想像がつくことでしょう。)

>実は電話の売り場ではペーパークリップで抜き打ち検査をしました。クリップが引っ張られるか、つまり磁気が
あるかどうかをためしたのです。ありました、磁気の強いのが。ただし、携帯のみです。おそらく、何をいわんと
しているのかおわかりにならないと思いますが、以下の部分を読むうちに理解されることと思います。

補聴器装用者には電話使用を嫌う方が多いことと思います。もちろん、ハウリングが起きることと、耳からやや
離して電話を使うと聞き取りが悪くなることが原因です。軽度、中等度難聴の方々は補聴器をはずして電話を
使うことが多いのではないでしょうか。

現在、アメリカの市場ではカスタム補聴器のなかに誘導コイル(こちらでは‘テレコイル’といいます。)を搭載する
ことが多くなりました。以前はオプションでしたが、新しい型の補聴器にはスタンダードについています。この誘導
コイルは耳掛型には搭載されているものです。皆さんのなかにはご存知の方もいらっしゃるとおもいますが、
その誘導コイルは要は磁石で、日本ではループシステムなどと使用することで知られています。実は電話の
受信部分(耳のところにあてる部分)に磁気の漏れがある場合、電話と補聴器が相互作用します。

もちろん、音声の受信は磁気の強さと補聴器の誘導コイルの強さと角度にも影響されるので、うまく聞き取れない
こともあります。最近は誘導コイルの強度を調節できるものもありますので、かなりの柔軟性はでてきました。
また、カスタム型補聴器には“スイッチレス”があります。磁気漏れのある電話を補聴器に近づけると自動的に
電話回路になります。電話を離すと、普通のマイクモードに変わります。

日本では補聴器の誘導コイルで使える電話はないとされています。たしかにファックス電話には磁気漏れが
ありません。でも携帯は多少の磁気漏れがあります。

耳掛け補聴器を装用されている方、試してみてください。でも磁気漏れにより、雑音もあるかもしれません。
わたしの患者さんのなかでも、うまく使えるひと、使えないひと、電話の受信が良いひと、良くないひととさまざま
です。試してみて結果を教えてください。


補足
 ’テレコイル’についてですが、耳掛け型補聴器で 'M−T' のスイッチがあるものは ’T' のポジションにします。
また、マルチメモリーのものはメモリーボタンで'T'のメモリーにします。補聴器によっては電話モードの場合、
ボリュームをあげる必要があります。テレコイルはすべての耳かけ補聴器に搭載されていますが、カスタム
補聴器には搭載されていないものが多いのが通常です。

ここで、繰り返し述べますが、携帯電話でも磁気もれのとても弱いものがあります。あまり、弱いと補聴器の
テレコイルとうまく働きません。


次回は来年になってしまいますね。

メリークリスマス & ハッピーニューイヤー

                                                <2005年12月 6日>




   

Dr. Miekoレポート その12


                                                   2006年2月14日

 2月14日はバレンタインデーです。日本では女性のほうから男性に“チョコレートをあげる日”となっているよう
ですね。義理チョコがあったり、そのお返しの“ホワイトデー”があったり、チョコレート会社のあおりでしょう。
わたしが日本にいたときは“義理チョコ”や“ホワイトデー”などはありませんでした。

こちらでは、バレンタインデーは“あなたのことを思っている”という気持ちを伝えるためにカード、バラの花束、
チョコレート、ジュエリーなどを送りますが、その対象は女性から男性でなく、どんな関係においてでもです。
中心はご主人から奥さん、ボーイフレンドからガールフレンドにというように男性から女性にですが、孫から
おばあちゃん、おじいちゃんに、子供から両親にということもあります。 

先日のこちらの新聞に男性がバレンタインデーに遣う費用が平均1万8千円、女性は平均7千円とありました。
今の時期テレビで宝石店、デパートのダイヤモンドの広告がクリスマスの時期のように多くなっています。

まだ、オーディオロジストになって間もない頃、補聴器の患者さんであった当時10歳の男の子から手作りの
バレンタインカードをもらったことがあります。もちろん、補聴器のお世話に感謝されている気持ちが伝わり、
うれしく思いました。


さて、補聴器のお話です。最近31歳の男性が私のクリニックに来ました。趣味は狩猟とレーシングカー。過去数年、
補聴器は高騒音のなかでは使えないといわれ諦めていました。補聴器を求めにきた理由はレーシングカーの
修理工になるための学校に行きたいので、講義をよく聞けるように、また実習でも騒音のなかで、話が聞こえる
ようにというものです。皆さん、レーシングカーの騒音レベルをご存知ですか。非常にやかましいレベルです。

この患者さんには“非常にやかましいノイズ”を抑制し、耳にダメージを与えないようにでき、ノイズ下でも会話が
聞き取れること、細かい調整・個々のプログラム(メモリー)の調整ができることを考慮し、最高級レベルの補聴器
をフィッティングしました。自動調整からはかなりかけ離れた調整でしたが、その効果は大変よく、それぞれの
プログラムをよく使いこなしています。

次に、71歳のエコノミーレベルのノンリニア補聴器(実は私のクリニックのオリジナル製品)装用者が新しい最高
機能の補聴器を試してみたいということなので、上記でご紹介しました同じ最高機能の補聴器を選び、調整し
、フィッティングしました。でも、その患者さんにとってはご自分の補聴器と最高級の補聴器の効果の差がはっきりと
出ませんでした。もちろん、値段を考えて“価値”を比べたのだと思いますが、あまり値段の高くない補聴器でも
いま装用している補聴器が本人にとってはとても良く働いていると喜んでいました。


このように、最高級の補聴器の効果がはっきり本人にわかり、活用できる患者さんがいる反面、効果を認識できない
患者さんもいます。

ですから、いくら良い補聴器だといっても、それが誰にでも良い補聴器だということではありません。
バレンタインデーのチョコレートではないけれど、広告、宣伝にあおられないようにしましょう。

                                               <2005年 2月14日>




   

Dr. Miekoレポート その13


                                                   2006年5月30日

 月日の経つのは早いもので、もう6月。今週は夏のようです。テレビのドラマも春シーズンが終了しました。
私が毎週かかさず観ていたのは “24” です。日本でも人気番組だそうですね。大統領役をやっている俳優さんの
演技に感心してしまいます、、、と、お話しようと思いましたが、日本では一シーズン遅れているので、あまり、
触れないことにしましょう。

さて、補聴器のお話です。最近では騒音抑制回路と環境適応型指向性マイクが多く紹介されています。
これで聞きたくない音が聞こえなくなると思われがちですが、補聴器は皆さんがどんな音を聞きたいのか、聞きたく
ないのかはわかりませんから、日常周辺音は正常耳と同じように聞こえます。

特に環境適応型指向性マイクは“万能”のように思われがちですが、状況によっては効果があらわれないことが
あります。例えば、雑音の方向が一定していない、話し手の位置が一定していない、話し手との距離がある場合、
残響音がある場合などです。残響音(体育館、講堂など)がある場合でも音源に近いところではよいのですが、
音源から離れることにより、指向性マイクの効果は全く無くなってしまいます。

残響音に対処できるという回路もでていますが、リサーチによると残響音のなかでの言葉の理解度は向上
しなかった、ただ、残響音のなかでの補聴器使用の快適さは向上したとあります。

個人個人の難聴、音の認識の違いにより、指向性の効果がはっきり現れないことがあります。また、機種に
よっては値段も高いので、できるだけ機能を理解し、個人個人の生活環境、ニーズなども考慮にいれて購入
されることをお勧めします。

                                                <2006年 6月 4日>




    

Dr. Miekoレポート その14


 今回はなかなか皆さんにお話するのが遠ざかっている言い訳からはじめます。今年に入ってから急に忙しく
なったのは昨年から軍関係の聴覚検査の契約施設になり、軍をやめる人たちの健康診断の一部で難聴と
耳鳴りの症状のある人々の検査をするようになったからです。最近は昔からの退役軍人も含まれ、検査の
数も増えました。

軍隊ではどのような仕事をしていたか、どのようなもの(銃、大砲、爆弾、飛行機のエンジン、ヘリコプターの音、
機械音など)から騒音をうけていたか、私生活ではどうか。狩猟、電気工具、オートバイ、ロックコンサートなどで
騒音をうけた経験はないかなどの質問をし、難聴と耳鳴りの原因をつきとめます。

難聴の症状を訴えていても、検査をして、正常耳とわかるケースも多くあります。軍での従事活動による難聴と
認められたものには補聴器が無償で与えられます。

さて、補聴器のお話です。実はこのように無償で補聴器を与えられたにもかかわらず、常用していない人が結構
いるのです。 補聴器は最新の高級デジタル補聴器。 実は彼らには同じようなパターンがあります。 
それは難聴度ではなく、言葉の理解度です。言葉の理解度の低い人たちは補聴器の装用効果が大きく現れ
ないからです。もちろん、補聴器の選択、調節も大切なことですが、一番重要なことは補聴器への理解とリハビリ
が必要だということを理解することです。

“補聴器装用のリハビリ”って何?と思うかたが多いでしょう。まずは補聴器のできること、できないことの理解、
補聴器を通しての音に慣れること(もっとたくさんありますが)など。さらに上級編では読唇(口の動きを良く見る)を
心掛ける、自分で本の音読をするか 誰か(夫、妻、友人など)に本の音読をしてもらう。誰かに音読してもらう
ときには初めに口を見ながら、つぎに、口を覆って読んでもらう、などです。

今、日本では 中高齢者のために 脳の活性を保つ あるいは活性化のために“なんとかのドリル”だとかという
のがはやっていますね。

聞こえ、特に、言葉の理解、嫌な音の選択などは“脳”のはたらきです。“なんとかのドリル”のように聞こえも
トレーニング次第だということをお忘れなく。

付録1
 今年の6月に発行された補聴器の学術誌のなかに“デジタル補聴器の雑音抑制”のことがありました。
結論だけいえば、各補聴器の雑音抑制の仕方が異なり、それが様々に異なった結果をもたらすということです。
Aさんの補聴器がよいからといって、Bさんが同じようによい結果が得られるとは限らない。Aさんの補聴器は
ある場所では聞こえがよくなるが、状況の異なる他の場所では聞こえが悪くなる、ということがありうるという
ことです。さてどうしたらよいのでしょうか? 

これは当たり前のことですが、数種類の補聴器の長所、短所を経験、学習から良く知っている、じっくり補聴器の
できること、できないことをお話してもらえる、難聴者のニーズを知ろうと話しをよくきいてくれる、リハビリの
必要性を知っている、装用効果を客観的、主観的に評定している −−−補聴器販売者とじっくりお話しして
みましょう。 (“じっくり”とお話できないということはそこはやめて、他のところにいってみるということです。)


付録2
 今年も11月8日に補聴器販売者の方々を対象にセミナーを催します。
詳細は miekorabano@yahoo.co.jpまでご連絡ください。

                                                  <2006年10月6日>



     
                         Dr. Miekoレポート その15

“ご無沙汰していました。”と書かないで済むようにと思っていましたがまたもや、長いお休みに
なってしまいました。


こちらでは日本ではあまり伝えられていないイラク戦争での戦死者の記事、ニュースが毎日のように
あり、テレビのニュースはあまり見ないようにしているのですが、避けられません。 また、私の
日常の仕事にも戦争の後遺症がかかわっています。以前にもお話しましたが、私の仕事のひとつに
退役軍人と除隊する人たちの聴覚検査があります。(アメリカで一番大きい陸軍基地のある都市に
いるのですから、引き受けざるを得ないのです。)私の仕事は退役軍人や現役軍人の聴力低下や
耳鳴りが軍での騒音によるものかどうかの判断です。


退役軍人のなかで、ベトナム戦争などにかかわった人たちのなかで2年ぐらいの短期間の従軍経験者
も少なくはないのですが、入隊時、退役、あるいは除隊時の聴力検査の結果がなく、老化による聴力
低下があるにもかかわらず、彼らの多くが戦争時の騒音のための聴力低下や耳鳴りを主張します。
時がかなりたっているので、その判断はむずかしいものです。たしかに昔は耳栓がありませんでした
から、ヘリコプターの操縦士、大砲や銃を撃ったり、爆撃にあったり、また飛行機の周囲で働いて
いた人達はその影響があったことは明白です。


もちろん、大砲や銃、爆発の音で全員が聴力を落とすことはありません。人それぞれ、体力、体組織
の強弱があるように、耳の組織にも強弱があり、聴力が落ちない人もいます。しかしながら、耳鳴り
は多くの人に起こるようです。



先日、イラクに8ヶ月ほど行っていた23歳の青年が聴力低下と耳鳴りがあるということで来店しま
した。軍隊での仕事はトラックドライバー(運転手)、銃撃戦や爆弾の音からは遠ざかっていたよう
です。検査により、聴力は正常でした。耳鳴りは本人の報告と彼が経験した状況判断しかありません。
ちょうどその数日後、高速道路を運転していた時に陸軍の輸送車の列に出会いました。その列を
越したときに聞こえたトラックのエンジンの音のすさまじいこと。私の閉めてある車の窓からその
すさまじい音が聞こえたのです。運転台はオープンカーのようにフロントガラスだけです。ドライバー
はエンジンの音を直接聞いていることになります。トラックドライバーでもかなりの騒音の影響を
受けていることがわかりました。

ところで、戦争にかかわらなくとも、やかましい音で、聴力を低下させ、耳鳴りを起こさせるものは
たくさんあります。職業的なものでは消防車のサイレン、工事のドリル、電気のこぎりなどのパワー
ツール。ロックバンドなどでかなり大きな音に関わるミュージシャン。よく耳栓をすると話が聞こえ
なくなるから耳栓をしたくないということを聞きます。でもそれぞれの仕事、趣味に適ったフィルター
付耳栓というのもありますから、なにごとも“予防”が第一です。

MP3 やiPod で音楽を聴いている若い人達。 周囲が聞こえなくなるような大きな音で聞いていると
聴力の低下と耳鳴りを起こしている例がすでにあるので、くれぐれもご注意を!


さて前書きが長くなってしましました。

本題は Acceptable Noise Level (アクセプタブル ノイズ レベル) ANL、ノイズ(騒音)に対する
許容度のお話です。このコンセプトがでてきたのは数年前ですが、最近になってANLのリサーチが増えて
きました。これは“個人が環境騒音に対する許容度が高いと補聴器装用を受け入れる度合いが高いのでは
ないか”という論を基にしたものです。補聴器を装用されている方々の中には、レストランなどの音が
耐えられないという方と、まあうるさいが大丈夫という方がいるのではないでしょうか。

このANLは難聴度にかかわりなく、正常耳でもあります。実はわたしのANL度はとても低いのです。
反響音などでやかましいレストランに入ると耳を塞いでしまいます。またイライラしてくるのです。
私の主人の家族はよく誰かの誕生日というとレストランで祝うのですが、ややうるさいレストランでは、
私以外の家族たちは普通に会話をしているにもかかわらず、わたしは隣の人の言葉しかわかりません。
テーブルの向かいの人の言葉は聞きとりにくいのです。(私の聴力は正常です。)ですから、私は極力、
このようなやかましいレストランは避けるようにしていますし、うるさいパーティーなどでは隣の人
との会話で済ませるようにしています。


補聴器をフィッティングするものにとって、この許容度というものを理解することで、補聴器の選択、
調整、カウンセリングにとても役にたちます。また、補聴器を装用している方々は“補聴器をつけると
やかましい”とあきらめずに、補聴器販売者に、経験をお話し、調整してもらうことが大切です。
最近の補聴器はオートマチック機能のなかで、“静かな場での会話”、“うるさい場での会話”など
それぞれを調整できるものもあるのですから。また、極端に“やかましい”音が気になる方はオート
マチック機能のほかに“やかましい時”の設定のプログラムを足してもよいでしょう。(プログラム1、
プログラム2のように)

このようにやかましさへの感覚も人それぞれ、誰かが“この補聴器はレストランでも会話ができる”と
自慢げに話していてもそれがあなたに合っているものかはわかりません。もちろん、試してみることです。


                                                  <2007年7月 1日>




     
                         Dr. Miekoレポート その16




 このサイトを訪問され、愛読されている方々の多くは難聴があり、補聴器を装用されていて、
聞き取りの困難さを経験されていることでしょう。

実は聴覚レベルが正常でも聞き取りが困難なことがあるのです。特に、高齢者に多いのですが、
40代からでも聞き取り困難の症状がでてくるひともいます。

ご存知のように、言葉の理解は脳です。脳の言葉の処理がスローダウンしてくるのです。 
ですから高齢者のかたで、難聴レベルが低下されているかたのなかには補聴器が役にたたないと
がっかりされているかたも少なくはないでしょう。

今年の私の補聴器セミナーはこの高齢者(老人性)難聴を取り上げます。


    高齢者難聴を考える
               ・聴覚生理
               ・聴覚情報処理 (Auditory Processing)
                  Auditory Processing とは どういうものなのか
               ・高齢者の聴覚情報処理
               ・高齢者の言葉のききとり
               ・補聴器の選択とアフターケア
               ・2006-2007の米国専門誌の中からの新しい情報



 ■日時: 2007年11月23日(金)午前10時〜午後5時(9時半 受付開始)

 ■会場: きゅりあん (品川区立総合区民会館)第2講習室
               電話 03(5479)4100
                JR京浜東北線 大井町駅東口駅前 (丸井に隣接)

 ■参加費:1万円    (補聴器販売従事者、言語聴覚士, 耳鼻科医など)



このサイトをご覧になっている補聴器、難聴に関わっていらっしゃるかた、介護士のかたで難聴に
興味のあるかた、ふるってご参加ください。


お問い合わせ  fhc955haa_seminar@yahoo.co.jp(日本語)


この高齢者難聴のお話は次回につづきます。

                                         <2007年 9月11日>





画面上へ戻る