2007.7.9

 ムーチョ・キャラバンの12名、パリーのカンポスご夫妻、在パリー日本大使館、サンシュルピス教会、日本人学校、並びにラ・フォンテーヌ高校の関係者の甚大なるご支援により、2007年5月27日(日)サンシュルピス教会、5月30日(水)日本人学校、5月31日(木)ラ、フォンテーヌ高校での遺作展は、パリ市民や観光客、そして日仏の学校の生徒たちに日本の文化と心をお伝えすることができました。

 会場風景の写真と説明を添えて、ご報告致しますので、その雰囲気をお伝えできればと思います。

パリーでのマサコ・ムトー遺作展を支えてくれた人達を、こちらのページでご紹介しますのでご覧下さい。
 1.サンシュルピス教会 2007年5月27日(日

 先ず、小説・映画「ダヴィンチ・コード」の舞台となり、有名になった「サンシュルピス教会」で遺作展が開かれることになった経緯について説明しましょう。

 パリー在住の、カンポス一家のミキコ、カンポスさん(日本人)とギエルモ、カンポスさん(ペルー人)のご夫のお陰で、思いもよらなかった「サンシュルピス教会」で開催ができました。

 2003年のエスパス、ジャポン、2004年の日本文化会館と「豆紙人形展」を見たカンポスご夫婦が「小さな教会ですが、マサコ、ムトーさんのお人形を是非私の教区の教会で!」と言ってくださったのが事の始まりです。

 教会と言う所は、宗派・人種・戒律、その他諸々の決まりで一番難しい場所で、カンポスさんが言ってくださった教会での展示許可を得るのは、簡単でありませんでした。それが何故、歴史が古く格式高いサン、シュルピス教会での展示が許されたのでしょう。

 実は、カンポスご夫妻とこの教会の掛かり合いは30年前、ミキコさんは日本から、ギエルモさんはペルーからフランスに来たばかりでビザもなくお金もなく、仕事もままならない時、恋人同士だった2人は「サンシュルピス教会」を眺め「あんなところで結婚式を挙げたいね」と話し合いました。

 それを聞いた周囲の仲間が「お前たちみたいにフランス人でもない、クリスチャンでもない、お金もない人間があんな立派なところで式を挙げさせてもらえるものか」と、言ったのだそうです。口惜しさに二人は「なんとしても」と思い、「サンシュルピス教会」の門を叩きました。

 すると神父様がにっこりとこう言いました。「愛があれば充分ですよ」。そして彼女たちはサンシュルピス教会で式を挙げることができたのです。

 お二人は三十年前を思い出し、「あの教会ならいいと言ってくれるかもしれない」と思い立ち、もう既に何のつてもなくなったサンシュルピス教会に足を運びました。

 初めてお会いしたルーマネ神父は、マサコ、ムトーのお人形の写真を見て 「なんて素敵なお人形でしょう。是非、ここでやりましょう」と言い、その場で決めてくださったそうです。

 マサコ、ムトーはクリスチャンと言ってもプロテスタント、サンシュルピス教会はカトリック。ちょっと気になったカンポスさんがそのことを言うと、神父様は30年前の神父様と同じ柔和な微笑でこうおっしゃったそうです。

 「このお人形を見てもらう人に、宗派の区別が必要ですか?」。これがサンシュルピス教会でマサコ、ムトーのお人形を展示できることになった理由です。

 展示会場となった洗礼室は教会の正面玄関を入り、間口58m、奥行き113mの大聖堂を見渡す直ぐ左手に入り口があり、大理石の床に重厚な石造りの丸い部屋となっています。四方の壁面に見事な彫刻がなされ、高い丸天井まで続いています。大きな美しいステンドグラスの窓から差し込む柔らかな自然光と、要所要所に設けられているスポットライトの光に包まれて、130点の豆紙人形たちはその背筋をピンと伸ばし、世界各国から訪れ来る旅人たちとパリ市民の入場を待っていました。

 12時の開場と同時に、礼拝を終えたパリ市民や旅人たちが、「この部屋は何をやっているんだろう?」と覗き込み、思いがけない日本の紙人形の展示に目を丸くしながらも魅入られたように一点一点をじっくりと眺め、それぞれの国の言葉で「なんて素晴らしい!」「なんて可愛らしい!」「なんて繊細で素朴なんだろう!」と感想の言葉を述べたり、"思い出ノート"に書き込んだりしてくれました。ひっきりなしに訪れてくれたお客様がどのくらいの数になるのか見当はつきませんが、マサコ、ムトーの作品が「日本の文化と心」を国という壁を越えて多くの人々に伝えてくれたことは確かに感じました。
大聖堂での礼拝ルーマネ神父と展示会場風景花魁人形に感嘆するお客様案内係を務めてくれた卑弥呼さんカンポス一家 
 2. 日本人学校 2007年5月30日(水)

 日本人学校では、豆紙人形の展示と「手のひらのしあわせ」の朗読コンサートを広い講堂で行いました。
ヒロコ・ムトーが朗読をし、レインステイック奏者で創作ダンスの卑弥呼さんが、この朗読のために音楽を作曲し、朗読にあわせて踊ったり演奏したりしてくれました。

 清治校長先生、臼井教頭先生をはじめ、先生方と小学校の全校生徒(約200人)が一体になって、展示会に先立ち「マサコ、ムトーの生き方と、そのお人形を語る会」をしてくださったそうです。

 「純粋培養されたような素直すぎるこの子たちが、いずれ母国日本に帰って日本の壁にぶつかる時、高齢と病魔に冒されながら88歳から豆紙人形を作り始めたマサコおばあちゃんの生き方とこの小さなお人形を思い出して頑張ってくれることと思います」という校長先生のお言葉に、ムーチョキャラバンの全員が感動で胸が熱くなりました。

 生徒たちとしっかりと向き合って愛情深い教育を行っている姿が短い時間にも伝わり、こんな学校が、こんな先生方がいれば日本からいじめもなくなるのに。と思ったものでした。

 マサコおばあちゃんのことやお人形のことを次から次へと質問してくる子供たち、お人形を見終わって教室に帰る時、一人一人が「ありがとうございました」と大きく手を振ってくれた姿が目に焼きついています。
卑弥呼さんの踊りに見惚れる生徒たち生徒代表による感想文と花束贈呈「可愛い!」「小さい!」と言いながら眺める生徒たち 
3.「ラ・フォンテーヌ高校」 2007年5月31日(木)

 
 最後の「ラ・フォンテーヌ校」では、豆紙人形の展示と弟子丸典子さんによる仏語朗読とヒロコ・ムトーの日本語朗読のジョイント、そして卑弥呼さんの演奏とダンス、又、「ラ・フォンテーヌ校」の子供たちが舞台に参加して日本の路地裏の遊びや童謡を歌ってもらうという賑やかな舞台となりました。

 「ラ・フォンテーヌ校」は、日本語教育に力を入れていることで有名なリセで、お人形を見る子供たちも興味と関心の深さが質問にも表われ、じっくりと見た後ノートに、沢山沢山感想の言葉を残してくれました。

 赤い振袖のような衣装を着て、レインステイックを手に舞い踊る卑弥呼さんは、まるで千代紙人形の精のように美しく優雅で、翻訳朗読をしてくださった弟子丸典子さんのフランス語はユネスコ大使、近藤誠一氏、駐仏公使、山田文比古氏から「素晴らしいフランス語です」と絶賛を受けました。

 舞台で浴衣を着て「かごめかごめ」や「茶摘」などを歌い けん玉やお手玉を披露してくれた、「ラ・フォンテーヌ校」の子供たちも その可愛らしさに思わず客席から拍手が湧いたほどでした。

 昨年の10月からコンタクトを取って、この日のためにずっと協力してくださった「ラ・フォンテーヌ校」の父兄、理子さんご夫婦&晶子さん、ネイテイヴのような語学力で、ラ、フォンテーヌ校以外のことまで色々と助けてくださいました。

 パリに着いたその日にホテルに花束を持って来て下さり(いみじくもヒロコ・ムトーの誕生日でした)帰る日まで毎日のようにムーチョキャラバンのアテンドをしてくださいました。

 この世には 初めて会う他人に対してこんなにもさりげなく温かい心で力を貸して下さる方々が存在するのだと、感謝の言葉も見つからないほどでした。
近藤誠一ユネスコ大使と山田文比古駐仏公使踊る卑弥呼さんと朗読
日本のお遊戯をする生徒たちと仏語朗読の弟子丸典子さん
 
最後の作品となった「東海道五十三次」を眺める生徒達
 4. 纏め

 27日のサン、シュルピス教会、30日の日本人学校、31日のラ、フォンテーヌ校で開催した「マサコ、ムトー・パリ追悼展」は日本とパリで何十人にも及ぶ方々の大きなご協力を得て感動を一杯いただいて終わりました。

 五箇所に分けて寄付してきたつもりの母、マサコ、ムトーのお人形は、もうワンケースが大使館から日本人学校に寄付され大事に展示されていることが分かり、又 寄付してきたそれぞれの場所で大切に飾られていることを改めて実感し「来てよかった!やってよかった!」と思ったものでした。

 そして、日本から一緒にパリについて来て、ボランテイアでお人形を運び、お人形を展示し、片付け、翻訳をし、共に朗読や演奏をしてくださったムーチョキャラバンの皆さん、パリでキャラバンに新しく参加してくださった皆さんに、私は一生の宝物をいただいた気がいたします。マサコ、ムトーの作品の海外展示をする、ムーチョキャラバンは今回で最後となりますが、メンバーの皆さんから頂いたお心と時間は 確実に訪れた地に残り、そして広がっていくことを感じました。

 心からお礼を申しあげます。又、いつも私を傍で支え守ってくれた「親方」こと主人に、この「ラストムーチョキャラバン」を機に心から「ありがとう!」の言葉を贈ります。

 「パリ追悼展」が終わって帰国した二日後はいみじくも母、マサコ、ムトーの命日でした。母が高い空の上からきっと喜んでくれたことと思います。                                       ヒロコ、ムトー
ムーチョ・キャラバン隊メンバー ムーチョ・キャラバン隊メンバー