=2009/09/06付 西日本新聞朝刊=
●生きる素晴らしさ伝えたい
88歳で豆紙人形作家としてデビューした母は、病気に苦しみ、視力を失いながらも、93歳で亡くなるまで小さな紙人形を作り続けた。
学校でいじめにあい一時は心を閉ざしてしまった娘は、あきらめずに級友に言葉をかけ続け、友だちと笑顔を取り戻すことができた。
「やろうと思えば、いつからだって、何だってできる」「勇気を出せば、つらいいじめも克服できる」
母と娘、2人の「物語」に込められた、前向きに生きることの素晴らしさを多くの子供たちに伝えたい。
そんな思いに突き動かされ、子供のためのミュージカル作家である著者は2年前、「心の宅急便」という朗読講演を始めた。
本書は、思いがけなくパリで開催することになった豆紙人形展から「心の宅急便」が生まれるまでを振り返り、これまでに訪れた全国の小中学校での子どもたちとの触れ合いがつづられている。
だが、単なる亡き母の追想録や学校訪問の報告ではない。
おばあちゃんの豆紙人形を通じて多くの人と知り合い、その人たちに支えられて次の挑戦が始まり、新たな感動が生まれる。
知人、友人に始まり、報道関係者、音楽家、外交官、米国シアトルやパリの子供たち、国内や海外の教師や父母ら…。仲間はどんどん増えていく。
思い込んだら周囲をはらはらさせるほどがむしゃらに突っ走る著者の行動力とひた向きさが、不可能を可能にし、夢を次々と実現させる。まるでドラマのような、わくわくする展開を楽しめる「出会いの旅」の記録でもある。
母のマサコ・ムトーさんは、北九州・門司の出身で、対岸の山口県下関市の女学校に通った。
手のひらに乗る大きさの紙人形は、竹馬やまりつきといった懐かしい遊びや庶民の暮らしを再現したものが多く、先帝祭など地元の祭りを題材にした作品もある。
パリでの作品展で紙人形の素朴な愛らしさに感動した当時の平林博駐フランス大使の仲介で、日本びいきのシラク元大統領にマサコさんの相撲人形が贈られた。シラク氏からは後日、丁重な礼状が届いた。
(中経出版・1365円)