工法の概要

《適用範囲》
 本指針は、既存の鉄筋コンクリート造建物または鉄骨鉄筋コンクリート造建物の耐震補強において、「アフタープロテクション®」を用いた湿式モルタル吹付け工法(「アフタープロテクション工法」)によって、壁の増設、壁の増打ち、開口の閉塞等による耐力壁化を行う際の設計および施工に適用する。
 なお、建物全体の補強設計およびその他の記載されていない部分については、関連する基・規準および指針による。

【解説】
 本指針は、プレミックスモルタルの一種である「アフタープロテクション®」を現場で混練し、得られたモルタル(以下「APモルタル」と略す)を圧搾空気を用いて壁配筋の上から吹付けて施工する「アフタープロテクション工法」(以下「AP工法」と略す)に関するもので、増設壁の新設、既設壁の増厚、開口閉塞等によって耐震壁を補強または新たに構築する事を目的とした耐震補強工法である。
 本指針は、(財)日本建築防災協会による、「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」、「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説」、「改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」、「改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説」を前提としていることから、原則として、鉄筋コンクリート(以下RCと略す)造建物の場合には5〜6階建以下の中低層建物を、また鉄骨鉄筋コンクリート(以下SRCと略す)造建物の場合には45m以下の建物を対象としている。
 ただし、ある特定の階を部分的に「AP工法」により補強する場合には、この限りではない。本指針は、原則として既存の各耐震診断基準および耐震改修設計指針に準じているため、対象とする既存コンクリートの圧縮強度は、13.5N/mm2以上とする。
 図1に主な適用対象である壁の増設、増打ち、開口閉塞の概念図を示す。壁の増設においては、型枠である背板やハーフプレキャスト板に吹付けて施工される。壁の増打ちにおいては既設壁と一体となるように施工する。
 開口閉塞においては、袖壁、垂壁、腰壁等を有する開口を閉塞して耐力壁を構築する方法であり、開口部の閉塞だけでなく、増打ちを併用して壁厚を増大させる場合がある。
 いずれの場合においても、梁・柱等既存の架構との一体化をあと施工アンカーなどによって、また既存の壁との一体化を「APモルタル」と既存のコンクリートとの付着・定着によって図る。以上、通常の後打ちのコンクリート耐震壁を構築する補強方法と同じであり、「APモルタル」は流し込みのコンクリートに替わって吹付けによって施工されるものと考えて良い。
 「APモルタル」はビニロン短繊維が添加されているため、乾燥収縮ひび割れが発生しても、その開口幅の拡大を抑えることができる。
 また吹付けられた後のダレが生じにくく、300mm程度の厚さまで一度に施工できることも特徴である。

図1.「AP工法」を用いた壁の構築方法の概念図例



 「AP工法」で用いる施工システムの例を図2に示す。
施工システムは現場練り用のミキサー、アジテータ付きホッパー、スクイズ式モルタルポンプ、エアーコンプレッサー、吹付けガンからなり、比較的狭いスペース(目安として2m×5m程度)で施工システムを構築できることが特徴である。
 レディミクストコンクリートの調達が難しい現場や、高層階やユーティリティ室等のようなコンクリートポンプ車等を用いてのレディミクストコンクリートの打設が困難な場所においても、「AP工法」では比較的施工が容易であることも大きな特徴の一つである。
 また「AP工法」は湿式吹付け工法のため、粉塵の飛散は非常に少なく、型枠も背板と側板の設置で済み、建物を供用しながらの施工も可能である。

図2 施工システムの例


なお、本指針で示されていない内容の詳細については、以下の関連する基・規準、指針および標準仕様書等による。
@(財)日本建築防災協会:「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」2001年(以下、「RC耐震診断基準」と略す)
A(財)日本建築防災協会:「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説」2001年(以下、「RC耐震改修設計指針」と略す)
B(財)日本建築防災協会:「改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」2009年(以下、「SRC耐震診断基準」と略す)
C(財)日本建築防災協会:「改訂版 既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説」2009年(以下、「SRC耐震改修設計指針」と略す)
D 国土交通省住宅局建築指導課:「改正 建築物の耐震改修の促進に関する法律・同施行令等の解説」
E(財)文部科学省:「学校施設の耐震補強指針 RC造校舎編」2003年
F(社)日本建築学会:「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」1999年(以下「RC規準」と略す)
G(社)日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コンクリート工事」2009年(以下、「JASS 5」と略す)
H(財)建築保全センター「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」平成19年版